記事ポイント
- 186万人データ×機械学習によるSAS予測精度AUROC 0.898
- 予測上位1%の約3割がCPAP治療患者に該当
- 健診・ライフログのみでSASリスクアラートを実現
JMDC・オムロン・筑波大学の共同研究グループが、レセプトデータ・健康診断データ・日々のライフログを組み合わせ、治療が必要なレベルの睡眠時無呼吸症候群(SAS)リスクを高精度に予測するAIモデルを開発しました。
研究成果は国際学術誌「Sleep and Breathing」に掲載されています。
「SASリスク予測AIモデル」

- 対象データ:約186万人のPep Upユーザー(2022年1月〜2024年7月、3か月毎11時点、延べ約1,869万レコード)
- 手法:機械学習(LightGBM)、279のデータ項目を使用
- 掲載誌:国際学術誌「Sleep and Breathing」
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりを繰り返す病気です。
高血圧・脳卒中・心疾患など、重大な合併症との関連も広く知られています。
放置すれば命に関わるリスクをはらんでいます。
国内のSAS潜在患者は約940万人にのぼります。
一方、代表的な治療法である持続陽圧呼吸療法(CPAP)の利用者は約64万人程度。
大多数の患者がいまだ治療を受けられていない現状があります。
多くの患者は自覚症状に乏しく、確定診断には専門施設での精密検査(PSG:ポリソムノグラフィー等)が不可欠です。
そのため未診断・未治療の「隠れSAS」が社会に多数存在するとみられています。
気づかないまま重症化するケースも少なくありません。
従来のSASリスク把握は、医療機関受診や専用ウェアラブルデバイスの利用など、自覚症状のある人が手間とコストをかけて行う手法に限られていました。
本研究はこの課題に対し、すでに蓄積されている大規模ヘルスデータとAIを組み合わせたアプローチで取り組んでいます。
3者の役割と研究の構成

本研究はJMDC・オムロン・筑波大学の3者が役割を分担して進められました。
JMDCが臨床データの整備と予測モデルの構築・解析を担い、オムロンが血圧計等デバイスデータの連携と臨床的助言を行い、筑波大学が研究全体の監修と臨床疫学・睡眠医学の観点から指導しています。
使用したデータは、JMDCが保有する仮名加工済みのレセプトデータおよび健康診断データに加え、PHRサービス「Pep Up」に記録された日々のライフログデータ(家庭血圧・体重・睡眠時間・歩数など)です。
本研究の新規性として特筆されるのは、レセプトや健康診断のデータだけでなく、血圧計・体組成計・ウェアラブルデバイス等から得られる日常の健康データ(PHR)を予測に組み込んだ点と、PHR情報がある場合とない場合で予測精度を比較した点です。
予測モデルの精度と主要な結果

- AUROC:0.898(95%信頼区間:0.895〜0.901)
- 予測スコア上位1%のうち約3割(28.3%)が実際のCPAP治療患者に該当
- 予測スコア上位10%のうち約1割(10.3%)が実際のCPAP治療患者に該当
- 本研究対象集団におけるSAS有病率:1.6%
AUROCは予測性能を示す指標で、0.5(ランダムと同等)から1(完璧な予測)までの値をとります。
今回のAIモデルは0.898を達成しており、治療が必要なレベルのSASを非常に高い精度で予測できることが確認されました。
予測スコア上位1%に入った人のうち28.3%が実際のCPAP治療患者に該当しており、有病率1.6%の集団を無作為に検査する場合と比べ、はるかに効率的にハイリスク者を絞り込めます。
「Pep Up」を通じて血圧・睡眠時間・体重などを日常的に記録しているユーザーほど、PHRが予測に貢献する度合いが高いことも分かっています。
日々の記録を続けることがそのままリスク把握の精度向上につながる構造です。
予測因子の上位15位(SHAP値)

重要な予測因子として、男性であること・年齢・BMI・腹囲などが上位に挙がり、過去の研究と矛盾しない結果です。
加えて、健康診断の採血結果や日々のライフログ(睡眠時間など)も予測に寄与しており、特別な医療機器なしに収集できるデータが予測精度の底上げに貢献しています。
SHAP値は各予測因子がモデルの出力にどの程度影響するかを定量的に示す指標です。
上位因子の顔ぶれを見ることで、「どんな人がSASリスクが高いか」を客観的に把握できます。
専門知識がなくても結果を解釈しやすい点も特徴のひとつです。
「隠れSAS」の早期発見と今後の展望
このAIモデルを活用すると、特別な検査機器は不要です。
既存の健診データや個人のライフログをもとに、「SASリスクが高いグループに該当するため、精密検査をお勧めします」というアラートを出せるようになります。
日常的なデータから見落としを防ぐ仕組みといえるでしょう。
リスクが高いと判定された人に精密検査を推奨し、治療適応がある場合は早期治療につなげます。
こうした流れを通じて、健康寿命の延伸への寄与が期待されています。
予防から治療まで一貫したサポート体制の実現です。
未治療のSASによる日中の強い眠気や集中力の低下は、「プレゼンティズム(疾病就業)」や「アブセンティズム(疾病休業)」を招き、労働生産性の低下につながることが知られています。
ハイリスク者を早期に発見して治療につなげることで、従業員の健康度向上と企業の生産性損失の抑制にも寄与することが期待されています。
今後JMDCは、レセプト・健康診断・ライフログデータからの多様なAIモデル構築を継続し、SASを皮切りとして脳心血管イベント・生活習慣病・メンタル疾患等への展開も視野に、予防医療ソリューションの事業共創を進めていく方針です。
オムロンは家庭血圧計・体組成計・ウェアラブルデバイス等のデータが病気の予兆予測に活用される健康管理の実現を目指しています。
よくある質問
Q. このAIモデルはどのようなデータを使っていますか?
A. JMDCが保有する仮名加工済みのレセプトデータ・健康診断データに加え、PHRサービス「Pep Up」に記録された家庭血圧・体重・睡眠時間・歩数などのライフログデータを組み合わせています。
約186万人のPep Upユーザーから収集した延べ約1,869万レコードを使用しました。
Q. 予測精度はどの程度ですか?
A. 予測性能を示すAUROCは0.898(95%信頼区間:0.895〜0.901)です。
予測スコア上位1%のうち約3割(28.3%)が実際のCPAP治療患者に該当しており、有病率1.6%の集団を無作為に検査する場合と比べて効率的にハイリスク者を抽出できます。
Q. 国内のSAS潜在患者数はどのくらいですか?
A. 国内のSAS潜在患者は約940万人とされています。
一方、持続陽圧呼吸療法(CPAP)を受けている患者は約64万人程度にとどまっており、多くの患者が治療のチャンスを失っている可能性があります。
Q. この研究の成果はどこで発表されましたか?
A. 国際学術誌「Sleep and Breathing」に学術論文として掲載されています。
「SASリスク予測AIモデル」の紹介でした。