釣り糸の製造・販売を行う「サンライン」は、同社のプラズマライズ事業部がネイルケアに適したプラズマ処理方法やネイルサロン向け大気圧低温プラズマ処理装置を開発し、新たに美容業界へ進出。
爪に低温プラズマを照射することで、ジェルネイルの接着性の向上や爪表面のクリーニングなど、ネイルケアにおける課題を解決し、若手開発員の発想を起点に、新規事業開発へと乗り出しました。
サンライン プラズマライズ事業部「Plastas(プラスタス)」
「サンライン」は、2019年より独自技術である大気圧低温プラズマ技術「プラズマライズ」を利用し、自社の釣り糸事業をはじめ、製造業を中心とした実験や開発、生産、分析を受託しています。
製造業では、工場のVOC排出抑制などの環境対応や、新製品開発における機能性向上などの需要が拡大しており、溶剤や薬液を使用しないドライプロセスで、高い化学的活性により物質の表面改質が可能なプラズマ技術への関心が増えています。
近年では、製造業に限らず、美容や農業などへのプラズマ利用の期待が増えています。
そこで、産業、ヘルスケア、食品・農業の分野へのプラズマソリューションを展開するため、2023年10月より、新規事業「Plastas(プラスタス)」をスタートし、ヘルスケア分野について「+Care(プラスケア)」を発足しました。
開発の経緯
物質にプラズマを照射することで、物質表面の接着性が向上したり、物質表面に付着する汚れ(有機物)を分解したりする効果があります。
また、サンラインの大気圧プラズマは、大気圧下で安定的に生成可能で、低温のため対象物にダメージを与えない特長があります。
このようなプラズマの効果や、株式会社サンラインが利用する大気圧プラズマの特長に着目した女性の若手開発員から「ネイルケアには接着性やクリーニングなどの課題を感じている。爪にプラズマを照射することで、ネイルケアの課題を解決できないか」と提案がありました。
ネイルケアの課題について詳しく調査したところ、爪を研磨することによる荒れや、ネイル施術に使用する有機溶剤の経皮吸収などの課題がある事がわかりました。
爪の研磨は、ジェルネイル(合成樹脂の液体)を剥がれ難くする目的で行われる工程で、ヤスリで爪甲(そうこう)を研磨して表面を粗くします。
研磨した爪甲はネイルオフ(ジェルネイルの除去)時に外観が白濁し、見た目の美しさが損なわれます。
研磨によって薄くなった爪は、外観が損なわれるだけでなく、物理的な強度が低下したり、水分保水率が低下して乾燥し易くなったりすることで、割れやすくなる可能性があります。
また、爪表面をクリーニングするために、アセトンなどの有機溶剤を用いて、汚れを拭き取ったり爪表面の油脂を除去したりする場合があり、爪周辺の皮膚から有機溶剤を吸収する懸念があります。
これらの課題以外にも、装飾用ストーン(宝石やイミテーション)が使用途中で剥がれたり、ネイル施術時に爪表面の濡れ性が低いことで塗装斑が生じたりなど、ネイルケアには多くの課題がありました。
ネイルケアに適したプラズマ処理方法の開発
サンラインは、プラズマ処理実験を実施し、ネイルケアに有効なプラズマの生成条件や照射方法を見出して、ネイルケアに適したプラズマ処理方法を開発しました。
開発したプラズマ処理方法を用いたところ、プラズマ処理した場合、プラズマ未処理に比べジェルネイルの接着性が約1.8倍向上しました。
プラズマ処理により、爪表面を大きく研磨することなく接着性が向上するため、ネイルオフ時の見た目の美しさや、爪の強度を維持する事が期待できます。
また、爪表面を親水化することで爪の水分率が約3.5%上昇しました。
美容液などの濡れ性が向上するため、ネイルオフの期間もケアをサポートします。
開発したプラズマ処理方法では有機溶剤を使用しないため、有機溶剤の経皮吸収の懸念がありません。
これらの他に、装飾用ストーンの接着性がプラズマ処理によって約2.4倍向上したり、爪表面の濡れ性が向上することでネイル塗料の塗装性が向上したり、多くのネイルケアの課題を解決する事が期待できます。
ネイルサロン向け大気圧低温プラズマ処理装置の開発
従来の産業用プラズマ装置は、堅牢度が重視され重厚に設計されるため、ネイルサロンのインテリアにはミスマッチでした。
そこで、ネイルサロン向けに装置を小型化し、ネイルサロンのインテリアに溶け込むようデザインしました。
筐体のデザインだけでなくユーザー体験もデザインし、「指を置くだけ」でプラズマ処理され、その様子を見る事ができるよう設計しました。
サンライン プラズマライズ事業部がスタートさせた新規事業「Plastas(プラスタス)」の紹介でした。