発がんリスクを抑制するメカニズムを発見!芝浦工業大学システム理工学部生命科学科

投稿日:2023年1月30日 更新日:

芝浦工業大学システム理工学部生命科学科・矢嶋 伊知朗教授らの研究チームが、活性型ビタミンD3がヒ素を介した発がんのリスクを抑制することを発見!

がんを含むヒ素を介した様々な疾患の予防や治療に貢献していきます☆

 

芝浦工業大学システム理工学部生命科学科

 

 

論文名:Calcitriol inhibits arsenic-promoted tumorigenesis through regulation of arsenic uptake in a human keratinocyte cell line.

著者:
芝浦工業大学システム理工学部生命科学科 教授 矢嶋 伊知朗
名古屋大学大学院医学系研究科 講師 田崎 啓
名古屋大学大学院医学系研究科 准教授 大神 信孝
名古屋大学大学院医学系研究科 教授 加藤 昌志

 

芝浦工業大学システム理工学部生命科学科・矢嶋 伊知朗教授らの研究チームは、カルシトリオール(活性型ビタミンD3)が、ケラチノサイトと呼ばれる特定の種類の皮膚細胞において、ヒ素を介した発がんを抑制することを明らかにしました。

世界50カ国において、1億4千万人以上の人々が飲料水を通して定期的にヒ素にさらされており、これらのヒ素汚染水に含まれるヒ素の濃度は、世界保健機関(WHO)が定めるガイドライン値(10μg/L)を大幅に超える値です。

ヒ素汚染飲料水からヒ素を慢性的に摂取することは、皮膚がんを含む様々ながんを引き起こす可能性があることが知られています。

しかし、ヒ素を介した発がんを制御する生物学的メカニズムには、これまで不明な点が多く残されていました。

また、ヒ素による発がんを予防・治療する方法の開発についてもあまり進んでいません。

研究チームは、細胞培養試験によって、カルシトリオール(活性型ビタミンD3)が、「ケラチノサイト」と呼ばれる皮膚細胞において、ヒ素を介した発がんを抑制することを明らかにしました。

ケラチノサイトは、主に皮膚の一番外側の層である表皮に存在しています。

まず、カルシトリオールが、ケラチノサイトにおけるヒ素誘発性腫瘍形成に対して抑制効果を持つかどうかを明らかにするため、不死化ヒトケラチノサイトを用いて腫瘍形成活性の測定を実施。

カルシトリオールで処理したケラチノサイトは、ヒ素を介した腫瘍形成活性を49.3~73.1%抑制しました。

次に、ヒ素の摂取とカルシトリオール処理の関係を明らかにするために、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いて、カルシトリオールで処理したケラチノサイトのヒ素レベルを測定。

ヒ素を添加して培養したケラチノサイトをカルシトリオールで処理すると、ヒ素濃度が有意に減少しました。

カルシトリオールは、ヒ素の曝露により変化したアクアポリン遺伝子の発現を制御することで、ケラチノサイトでのヒ素取り込みを抑制しました。

カルシトリオール受容体(ビタミンD受容体)の発現は、ヒ素曝露により有意に増加しましたが、カルシトリオールは受容体の発現に影響を及ぼしませんでした。

さらに、カルシトリオールが、ケラチノサイト以外の細胞におけるヒ素誘発性腫瘍形成に対して抑制効果を持つかを明らかにするため、不死化ヒト肺上皮細胞を用いて、腫瘍形成活性の測定を実施。

カルシトリオールで処理した肺上皮細胞は、ヒ素を介した腫瘍形成活性を21.4~70.0%抑制しました。

これらの結果は、カルシトリオールがケラチノサイトだけでなく、肺上皮細胞など他の標的細胞でもヒ素による腫瘍形成を抑制することを示唆しています。

さらに、ヒ素による発がんにおいて重要なステップであるヒ素の取り込みに関与するアクアポリン遺伝子の発現パターンが、カルシトリオール処理によって大きく変化していることも確認されました。

ヒ素などの環境毒は、がんなどの生命を脅かす病気の発症に大きく関係しています。

しかし、ヒ素に汚染された水を飲用してからがんが発症するまでには、数年、もしくは数十年かかると言われています。

今回の研究により、カルシトリオールは、ヒ素を原因とするがんの予防や治療に利用できる可能性が明らかとなりました。

例えば、ヒ素汚染地域であらかじめビタミンD3を摂取(体内で活性化型に変換される)しておけば、5年後、10年後のがん発症リスクを低減し、長期にわたって健康を維持できる可能性があります。

今後は研究成果を活用し、がんを含むヒ素を介した疾患の予防や治療に貢献します

 

研究により、活性型ビタミンD3がヒ素を介した発がんのリスクを抑制することを発見。

芝浦工業大学システム理工学部生命科学科の紹介でした☆

※この研究成果は、「American Journal of Cancer Research」に掲載されています

※本研究の一部は、科学研究費補助金(19H01147、17KT0033、19K22907、22506148、20K06749、19K22907、16H02962、24390157、24406002)、コーセーコスメトロジー研究財団の助成を受けたものです

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