記事ポイント
- 明治安田厚生事業団 体力医学研究所が、身体活動の量と内容の違いを動物モデルで検証しました。
- 運動量が多いラットは早く、探索を伴うラットは遅れて不安様行動が減る傾向でした。
- 身体活動の「量」だけでなく「内容」も情動に関わる可能性が示されました。
明治安田厚生事業団 体力医学研究所と電気通信大学の研究グループが、日常的な身体活動の「量」と「内容」の違いが新しい環境での不安様行動に与える影響を動物モデルで検証しました。
4種類の環境で飼育したラットを新しい場所に置いて観察した結果、運動量の多い環境と探索を伴う環境とで、行動が変化するタイミングに違いがみられました。
明治安田厚生事業団 体力医学研究所 身体活動の内容と新しい環境への適応行動に関する動物研究

- 発表主体:明治安田厚生事業団 体力医学研究所の須藤 みず紀副主任研究員、電気通信大学の狩野 豊教授、安藤 創一教授(兼 体力医学研究所 客員上級研究員)らの研究グループ
- 掲載誌:Restorative Neurology and Neuroscience
- 論文タイトル:Distinct Enriched Environment Components Differentially Shape the Temporal Dynamics of Anxiety-Like Behavior in Rats
- 著者:Mizuki Sudo, Yutaka Kano, Soichi Ando
- DOI番号:10.1177/09226028261480778
- 利益相反:著者に開示すべき利益相反はありません
- 財源:JSPS科研費(23K24734)
体力医学研究所は、明治安田厚生事業団が運営する研究機関で、今回は電気通信大学の研究者とともに、日常の身体活動が心の健康にどう関わるかを基礎研究として調べました。
日常的な身体活動は心の健康と関係しますが、「どれだけ動くか」だけでなく「どのように動くか」という内容の違いが情動に与える影響は、十分にわかっていませんでした。
先行研究では、多様な刺激のある「豊かな環境」が身体活動を促し、認知機能や情動、ストレスへの適応によい影響をもたらすことがわかっています。
ただし日常の身体活動には、歩く・走るといった反復的な運動に加え、周囲を見回す、物に近づく、触れる、立ち上がるといった探索を伴う活動も含まれ、従来はこれらをまとめて評価することが多くありました。
本研究では、何も道具がない「通常環境」、運動を促す「回し車のある環境」、探索を促す「物体のある環境」、運動と探索の双方を促す「回し車と物体の両方がある環境」の4種類で、ラットを4週間飼育しました。
飼育後は不安様行動を評価する高架式十字迷路試験を行い、ラットが本来警戒する壁のない場所へどの程度進むかを見ることで、新しい環境への警戒や周囲を確かめようとする行動を観察しました。
試験全体の平均だけでなく、10分間の行動を2分ごとのフェーズに分け、時間経過に伴う変化に着目して分析しています。
運動量の多い環境では早い段階から行動が変化
回し車のある環境で生活したラットは、4週間を通して身体活動量が高く、日常的に多く身体を動かしていました。
これらのラットは試験開始直後から、通常環境のラットよりも壁のない開放された場所で過ごす時間や歩く時間が増加しました。
新しい環境に置かれた早い段階から、警戒するだけでなく、自ら周囲を確かめる行動が現れたことになります。
探索を伴う活動では時間が経ってから変化
物体のある環境で生活したラットでは、回し車の環境でみられたような総身体活動量の増加は確認できませんでしたが、物体への接触や立ち上がりなど、周囲を探索しながら行う活動がみられました。

試験開始直後には大きな違いはなく、試験後半になると、開放された場所で過ごす時間や歩く時間が増加しました。
探索を伴う活動が日常にある場合は、時間をかけて新しい環境への反応が変化することが示されました。
身体活動の「量」だけでは説明できない
物体のみの環境では総身体活動量は有意に増加しませんでしたが、新しい場所での行動には変化がみられ、その現れ方は回し車のある環境とは異なっていました。
情動行動を考えるうえでは、どれだけ動いたかという量だけでなく、運動として動いたのか、周囲を探索しながら動いたのかという内容も重要である可能性が示されています。
研究グループは、慣れない環境への警戒や探索行動の現れ方が、普段どのように身体を動かしているかによって異なる可能性があるとしています。
今回の成果は、心の健康を考えるうえで「どのように身体を動かして生活するか」にも目を向ける重要性を示唆する基礎的な知見で、今後は活動内容の違いが脳内の神経活動や身体から脳へ伝わる情報にどう違いを生むかを明らかにしていくとのことです。
運動を中心とした活動と探索を伴う活動とで、新しい環境への反応が現れるタイミングが異なる可能性が示された研究成果です。
身体活動を「量」だけでなく「内容」からとらえる視点が、日常の動き方と心の健康を考えるヒントになります。








