反芻動物由来メタンガスの安全な低減を実証!帯広畜産大学名誉教授 高橋 潤一先生「Science of the Total Environment」研究論文投稿

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「帯広畜産大学」名誉教授の高橋 潤一先生らが、最小有効量のL-システインと硝酸ナトリウムを組み合わせることで、反芻動物の曖気(げっぷ)中に含まれるメタンガスを安全に低減可能とする研究論文を投稿。

2023年10月に環境系ではトップレベルの学術誌「Science of the Total Environment」に受理されました。

 

帯広畜産大学名誉教授 高橋 潤一先生「Science of the Total Environment」に研究論文を投稿

 

 

反芻動物のルーメン内では摂取した飼料が嫌気性細菌によって発酵し、発生した水素からメタン生成菌がメタンガスを生成し、最終的に曖気(げっぷ)として大気中に放出されて、地球温暖化の原因となっていることが知られています。

硝酸ナトリウムはルーメン内での水素発生を減らし、メタン生成菌によるメタンガスの産生を抑えますが、ルーメン内で硝酸ナトリウムが還元されることで発生する亜硝酸が原因となって、家畜が硝酸塩中毒になることが懸念されます。

 

 

高橋潤一先生は硝酸塩中毒を防ぐために様々な検討を行い、最小有効量のL-システインと硝酸ナトリウムを組み合わせることで、硝酸塩中毒を防ぎつつ、胃内でのメタンガス産生を効果的に低減させる方法を見出しました。

また興味深いことにL-メチオニンやL-シスチンなど他の含硫アミノ酸では硝酸塩中毒を防ぐことができず、L-システインを投与した時のみ有効であることが分かりました。

L-システインは食品添加物や化粧品・医薬品の原料と幅広く使用されており、羊毛や鳥の羽毛、ヒトの毛髪にも存在しています。

非常に酸化されやすいため、食品添加物では塩酸塩であるL-システイン塩酸塩が指定添加物として登録されています。

 

論文概要

 

 

本試験では、反芻動物のルーメンから産生されるメタンガス排出量を安全に低減するために最適な硝酸ナトリウムとL-システインの組み合わせを検討するため、めん羊4頭に開放循環式呼吸ヘッドフードシステムを用いて検証が行われました。

試験は以下の4群で実施されました。

 

(1) コントロール群:アルファルファのヘイキューブ(成形乾草、以下同)を給餌

(2) 硝酸ナトリウム群:乾燥物中に硝酸ナトリウム0.18 %を含むアルファルファのヘイキューブを給餌

(3) 硝酸ナトリウム+L-システイン群(高濃度):乾燥物中に硝酸ナトリウム0.18 %とL-システイン0.74 %を含むアルファルファのヘイキューブを給餌

(4) 硝酸ナトリウム+L-システイン群(低濃度):乾燥物中に硝酸ナトリウム0.18 %とL-システイン0.37 %を含むアルファルファのヘイキューブを給餌

 

硝酸ナトリウム0.18 %を含む干し草を摂取させることで、平均メトヘモグロビン値が11.2 %増加し、ルーメン内のメタン生成が47 %低減しました。

しかし、L-システイン0.74 %または0.37 %を併せて投与することで、硝酸ナトリウムの単独摂取で形成されるメトヘモグロビン値がそれぞれ68 %と58 %減少しました(P < 0.05)。

一方で、L-システインを投与した場合、メタンガスの排出削減量は、いずれもコントロールと比較して35 %減少しました。

本研究の結果から、硝酸ナトリウムの含有量を干し草の乾燥物中で約0.18 %に維持し、L-システイン添加量を0.37-0.74 %に調整した飼料を与えることで、メトヘモグロビンの形成を抑えつつ、反芻動物のルーメン内メタンガス産生量を低減できることが明らかとなりました。

この方法は、反芻動物の曖気(げっぷ)由来のメタンガス排出量を削減し、家畜の生産性の向上につながると同時に、亜酸化窒素排出の原因となる窒素排泄を減らすための安全かつ有効な方法として推奨されます。

 

※硝酸塩中毒:摂取した硝酸ナトリウムが体内で還元されることで生成する亜硝酸が血液中のヘモグロビンと結合することでメトヘモグロビンを形成し、体内で酸素不足の状態となり、歩行中のふらつきや震え、重度の呼吸困難などを引き起こします

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