東京都企業立地相談センターは、人生最後の下着を開発した「株式会社 ETOE」代表取締役の渡邊 絵美氏と専務取締役の永本 英奈氏へ取材を行い、その内容を東京都企業立地相談センターホームページにて公開しました。
東京都企業立地相談センターホームページ
プロフェッショナルとして死者と向き合い、人生最後の下着を開発
北千住駅より徒歩5分にオフィスを構える株式会社 ETOEは、下着の企画デザインから製造までを手がけるスタートアップです。
下着のプロフェッショナルとして、今まで誰も目を向けなかった分野にも挑戦。
それが人生最後につける下着「Last Lingerie」です。
開発中からその注目度は高く、完成を待ち望む声が多かったとか。
今回は代表取締役の渡邊 絵美氏と専務取締役の永本 英奈氏に、起業のきっかけ、Last Lingerie開発の経緯、今後の展望などを伺いました。
年初に思い立った独立起業を最良のパートナーと実現
創業は2020年4月。
渡邊氏が起業を思い立ったのは、その年の元旦でした。
「ふと2023年は独立しようかなと思い立ち、休み明けに会社の同僚だった永本に『一緒にどう?』と話すと二つ返事で賛同してくれて、やってみようと決意。
私は下着デザイナー、永本はパタンナーとして、この業界で15年以上経験を積んできたので、独立することに不安はありませんでした。
何より、自分たちのやりたいことに挑戦できる。
それと個人的には、子どもと過ごす時間がほしかったというのも動機でした」(渡邊氏)
「私としては、大好きなものづくりができればどこに所属していても構わない。
ずっと一緒に仕事をしてきたパートナーとの独立に迷いはありませんでした。
また、時間的に自由度の高いフレキシブルな働き方ができるという期待もありました」(永本氏)
渡邊氏の自宅に近い北千住に事務所を構え事業をスタート。
主にメーカーと契約し、女性用の下着を中心とする企画デザインから、パターン制作、製造まで、ニーズに合わせてプロデュースしています。
「当初は企画デザインからパターンまでと考えていましたが、2年目から少しずつ事業内容を変更しメンバーを増やしてきました。
現在のメンバーは役員を含め5名。
下着であればどんなものでも企画できる。
それが私たちの強みです」(渡邊氏)
葬儀業界に飛び込み、今までになかった下着づくりに挑戦
通常業務と並行して新しい分野の下着にも挑戦し、初めて手がけたオリジナル商品が「ラストランジェリー」です。
開発の経緯を伺いました。
「私は幼少期に祖父の葬儀で見たオムツ姿がずっと忘れられず、調べてみると今もそれは変わっていませんでした。
ということは、この先もずっと日本人はオムツをつけて旅立つのだろうか?私だったら絶対に嫌だ。
ここで私が作らなければ、と思ったんです。
調査のため有楽町の施設でサンプルを展示したところ、かなり反応がよく、必要としてくれる人がいるんだと励みになりました。
ただ、私たちは女性の体の情報はたくさん持っているけれど、亡くなった人の体のデータは一つもない。
そこで、納棺師の方について葬儀に行き、亡くなった方の体を間近で見て情報を収集。
サンプルを何度も何度も修正し、完成まで2年ぐらいかかりました」(渡邊氏)
「正直に言うと、最初はあまり乗り気ではありませんでした。
死に馴染みがなく、怖かったんです。
でも、葬儀の場で感謝してくれる遺族の方と接するうちに、『きれいに見えて、納棺師さんが着せやすい下着を、私たちが作ってやるぞ』と気持ちが変わっていきました」(永本氏)
「受賞をきっかけに一般の方から問い合わせを多数いただきました。
あるとき、電話がきた方に発売予定時期を伝えたところ、『それでは間に合わない……』とガッカリされたのが忘れられず、一日でも早くと実用化を急ぎました」(渡邊氏)
ETOEのLast Lingerieは、令和4年度の足立区創業プランコンテストで優秀賞を受賞。
獲得した補助金で開発を加速し、2023年5月、ついに商品化が実現しました。
東京立地のメリット~スタートアップに支援が手厚くチャンスが多い
現在、足立区が運営する創業支援施設にオフィスを置くETOE(2024年1月末まで)。
東京立地のメリットは、創業支援が手厚く、活用できるネットワークやチャンスが多いことだといいます。
「創業時の事務所探しは、事業用として安く借りられるところがなかなか見つからず苦労しましたが、幸い1年後にこの創業支援施設に空きが出て移転することができました。
北千住駅から徒歩5分と立地も環境も申し分なく、前事務所より広くなり家賃は半分以下。
11階で眺めがよく、商談用に使える共用スペースもあります。
さらに、月に1回、インキュベーションマネージャーが面談で状況確認とアドバイスをしてくださる。
私たちは元々専門職で経営に関しては素人ですから、相談相手がいるのはとてもありがたいです」(永本氏)
「ほかにも様々な支援を積極的に活用しています。
Last Lingerieを開発する際は、新しいものづくりをサポートしてくれる足立区のカリキュラムを利用。
また、葬儀業界に足を踏み入れるにあたり、足立区のマッチング制度を利用し協力してくれる葬儀屋さんを紹介してもらいました。
そこからネットワークがどんどん広がり、いろんな方が力を貸してくれたのは、下町らしく人情に厚い足立区という土地柄かもしれませんね。
これからの課題は、Last Lingerieをどう売っていくか。
今までにない商品なので戦略が難しいと思います。
そこでスタートアップの事業成長を伴走支援してくれるA-MAPというプログラムに応募し、8カ月にわたるサポートを受ける予定です」(渡邊氏)
もうひとつ東京立地のメリットとして挙がったのは、交通アクセスの良さです。
「弊社の取引先の多くは都内ですが、商品は海外で作ることがほとんど。
これからはコロナ禍でストップしていた海外出張も増えるでしょう。
都内での商談はもちろん、成田や羽田から海外の生産拠点へ出やすいのも東京ならではの利点ですね」(永本氏)
最後に今後の課題と展望を伺いました。
「Last Lingerieという商品の認知を進め、10年後、20年後にはオムツではなく下着をつけて旅立つ人が増えていってほしいです。
また、今回の開発をきっかけにさまざまな出会いがありました。
今後は介護を受けている方や障害を持っている方などの悩みに寄り添う下着を作っていきたい。
小さい会社だからこそできることだと思うので」(渡邊氏)