記事ポイント
- 高齢者49名をDLW法・加速度計・MRIで調査
- 低強度身体活動が長いほど背外側前頭前野が大きい傾向
- 横断研究のため脳萎縮の予防とは結論づけられない
明治安田厚生事業団 体力医学研究所の須藤 みず紀 副主任研究員らの研究グループによる論文が、老化研究の国際学術雑誌「Experimental Gerontology」の2026年10月15日発行号に掲載されました。
地域在住高齢者49名を対象に、日常の身体活動と脳容積の関係を調べた研究で、歩行や家事などの低強度身体活動の時間が長い人ほど、前頭皮質と背外側前頭前野の容積が大きい傾向が認められました。
日常の軽い身体活動が高齢期の脳容積の維持に好影響を与える可能性を示す成果です。
明治安田厚生事業団 体力医学研究所 日常の「軽い身体活動」と高齢期の脳の健康との関連を明らかにした論文

- 掲載誌:Experimental Gerontology(2026年10月15日発行号)
- 研究グループ:明治安田厚生事業団 体力医学研究所 須藤 みず紀 副主任研究員らの研究グループ
- 対象:地域在住高齢者49名(平均71.1歳、女性35名)
- データ:福岡アイランドシティ研究
- 測定方法:二重標識水(DLW)法による16日間の総エネルギー消費量測定、3軸加速度計、MRIによる脳容積測定
- 論文タイトル:The association between doubly labeled water- and accelerometer-measured physical activity, brain volume, and cognitive function in older adults with cardiometabolic or functional risks.
- 著者:Mizuki Sudo, Soichi Ando, Rie Tomiga-Takae, Yujiro Kose, Takaaki Komiyama, Kota Anjiki, Yosuke Yamada, Naoyuki Ebine, Yutaka Shigemori, Yasuki Higaki, Yoichi Hatamoto; The Fukuoka Island City Study Group
- DOI:10.1016/j.exger.2026.113284
- 財源:JSPS科研費(25242065、23K24750)および福岡大学社会連携センターの支援
- 利益相反:著者に開示すべき利益相反はなし
この研究は、福岡アイランドシティ研究のデータを用い、地域在住高齢者の日常生活における身体活動と脳容積との関係を調べたものです。
加齢に伴い脳容積は減少し、なかでも前頭皮質は高齢期の認知機能や生活機能に関わる重要な領域です。
身体活動はこうした脳の変化を緩和する可能性がある一方、測定方法によって得られる情報が異なるため、総エネルギー消費量を高精度に測れる二重標識水(DLW)法と加速度計を組み合わせて評価しています。
参加者は49名で、DLW法で16日間の総エネルギー消費量を測定し、基礎代謝量で補正した身体活動レベルを算出しました。
3軸加速度計では歩数、座位時間、低強度・中高強度の身体活動時間などを測り、MRIで前頭皮質、側頭皮質、海馬などの脳容積を測定しています。
DLW法は、水素と酸素の安定同位体を含む水を摂取し、体内からの排出速度を測ることで、普段の生活を送りながら一定期間の総エネルギー消費量を高精度に評価する方法で、自由生活下のエネルギー消費量を測定する代表的な方法として国際的に用いられています。
加速度計は三軸加速度センサーを搭載し、身体活動や座位行動を客観的かつ詳細に評価できる機器です。
本研究で低強度身体活動(LPA)は1.5 METs以上3.0 METs未満の活動を指し、家事や歩行などが該当します。
加速度計で評価した身体活動レベルが高い人ほど前頭皮質の容積が大きい傾向があり、情報の整理や計画、判断などの高次認知機能に関わる背外側前頭前野(DLPFC)で明確な関連がみられました。
一方、身体運動の実行に関わる一次運動野では、身体活動量との関連は認められませんでした。
強度別では、低強度身体活動の時間が長い人ほど前頭皮質および背外側前頭前野の容積が大きい傾向を示しました。

MRI解析の対象46名では、前頭葉の相対容積が低強度身体活動の低い群で10.33%、中程度の群で10.46%、高い群で11.05%となり、主効果はp=0.015、傾向はp=0.009でした。
中高強度身体活動では同様の関連がなく、歩数やDLW法で評価した身体活動レベルと脳容積との明確な関連も認められませんでした。
高齢期の脳の健康では、総エネルギー消費量や歩数だけでなく、日常生活の中でどの強度の活動をどの程度行っているかという内容に着目することが重要な可能性があります。
著者は「脳の健康のための運動」というとウォーキングやスポーツなどまとまった時間の運動が思い浮かぶとしたうえで、日常生活の中で行う低強度の身体活動の時間が高次の認知機能に関わる領域の容積と関連していた点が興味深かったとコメントしています。

本研究は一時点で身体活動と脳容積の関係を調べた横断研究のため、低強度身体活動を増やすことで脳の萎縮を防げると結論づけることはできません。
今後は長期的な追跡研究や介入研究で関係を検証し、年齢を重ねても無理なく続けられる身体活動で脳の健康を支える科学的根拠につなげていく方針です。
歩行や家事といった日常の軽い身体活動の時間が、高齢期の前頭皮質や背外側前頭前野の容積と関連していたことを示す研究です。
対象は高齢者49名の横断研究で、因果関係の検証は今後の追跡研究や介入研究が担います。








