芝浦工業大学工学部・田嶋稔樹教授ら研究チームは、安全・安価なフッ化カリウム(KF)から無水フッ化水素(HF)を定量的に生成するオンデマンド合成法を開発しました。
芝浦工業大学
芝浦工業大学工学部・田嶋稔樹教授ら研究チームは、安全・安価なフッ化カリウム(KF)から無水フッ化水素(HF)を定量的に生成するオンデマンド合成法を開発。
KFは最も安全かつ安価なフッ素化剤の一つとして知られていますが、ほとんどの有機溶媒に難溶であることが課題となっていました。
これに対し、アルカリ金属イオンとのカチオン交換能を有するAmberlyst 15DRYに着目し、KFとAmberlyst 15DRYのカチオン交換反応を利用することで、KFから無水HFを定量的に生成することに成功しました。
一方、HFは毒性、腐食性を有し、さらに室温で気体(沸点:19.5℃)であることから、特別な設備がない限りその取扱いは極めて困難でした。
これに対し、本合成法では特別な設備を必要とせず、安全なKFから無水HFを必要な時に必要な場所で生成することができます。
さらに、生成した無水HFに対して種々のアミンを作用させることで、新規フッ素化剤として有望なAmine-3HF錯体のテーラーメイド合成を実現しました。
これにより、従来から用いられる70%HFと30%ピリジンの混合物であるOlah's試薬やEt3N-3HF錯体と比較して、より高い反応性が期待される有機強塩基-3HF錯体などを自由自在に合成することができます。
※この研究成果は、国際学術誌Chemistry - A European Journalオンライン版に掲載されています。
■ポイント
安全・安価なフッ化カリウムから無水フッ化水素を定量的に生成
特別な設備を必要としない、無水フッ化水素のオンデマンド合成法を開発
新規フッ素化剤(Amine-3HF錯体)のテーラーメイド合成を実現
■研究の概要
カチオン交換樹脂であるAmberlyst 15DRYが、そのスルホン酸末端のプロトンとアルカリ金属イオンを交換する性質(※水の浄化などに利用されています)に着目し、最も安全かつ安価なフッ素化剤の一つであるKFとのカチオン交換反応を利用することで、アセトニトリル(MeCN)中でKFから無水HFを定量的に生成することに成功しました。
通常、KFはMeCNに対して難溶であるのに対し、カチオン交換反応がKFの溶解を劇的に促進し、KFから無水HFが定量的に生成しました。
また、使用したAmberlyst 15DRYは再生可能であり、繰り返し利用可能でした。
さらに、カチオン交換反応によって生成した無水HFに対して1/3当量のアミンを加えることで、新規フッ素化剤として有望な種々のAmine-3HF錯体を合成することに成功しました。
■論文情報
著者 : 芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士課程2年 本間 晴香
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士課程修了 山田 真秀
芝浦工業大学工学部 教授 田嶋 稔樹
論文名: Quantitative Generation of HF from KF and Formation of Amine-3HF Complexes by Using Cation Exchange Reaction Between KF and Amberlyst 15DRY
掲載誌: Chemistry - A European Journal
DOI : 10.1002/chem.202500789