東京都企業立地相談センターは、墨田区産業共創施設SUMIDA INNOVATION COREを設置した「墨田区産業観光部産業振興課」に取材を行い、その内容を東京都企業立地相談センターホームページにて2024年12月19日に公開しました。
墨田区産業共創施設SUMIDA INNOVATION CORE
東京都企業立地相談センターは、墨田区産業共創施設SUMIDA INNOVATION COREを設置した「墨田区産業観光部産業振興課」に取材を行い、その内容を東京都企業立地相談センターホームページにて2024年12月19日に公開。
■スタートアップと中小企業の「共創」で産業集積をアップデート
東京スカイツリーや大相撲の聖地・両国国技館、桜の名所・隅田川など、観光地のイメージが強い墨田区。
しかしその一方で、東京23区内では2番目に工場が多い、ものづくりの街でもあります。
工場数は2,100ヵ所以上(「2016年経済センサス活動調査」より)。
しかも、印刷・紙加工、金属製品、プラスチック・ゴム製品、機械器具、繊維製品など、さまざまな分野にわたっていることが特徴です。
2023年10月、JR総武線・半蔵門線錦糸町駅徒歩8分の場所に開設された墨田区産業共創施設SUMIDA INNOVATION CORE(以下「SIC」)は、スタートアップ企業と墨田区内のものづくり企業との「共創」で、新たなイノベーションを創出する“出会いの場”です。
開設の経緯や特徴、東京都・墨田区で起業するメリットなどを、墨田区産業観光部産業振興課産業振興担当の高橋 正臣氏※にうかがいました。
※「高」は「はしご高」が正式表記
■共創を創出するためのアクセラレーションプログラム「SPARK」
1979年に全国で初めて『墨田区中小企業振興基本条例』を制定して以来、墨田区はほぼ半世紀にわたって中小企業支援に取り組み続けています。
例えば20年ほど前からは、中小企業の事業を継承し、次世代を担う人材の育成を目指す私塾形式のビジネススクール『フロンティアすみだ塾』を立ち上げて、中小企業の活性化に力を注いでいます。
また、2013年からは、ものづくりでイノベーションを起こすことを目指し、新しい製品や技術、サービス、ものづくりコミュニティを創出する拠点を整備する事業を開始し、印刷・金属・繊維・デザインなど、拠点を運営する事業者の特性を活かした新ものづくり創出拠点を10ヵ所開設しました(2024年12月現在8ヵ所)。
この間、会員はフリースペースの「THE CORE」内の施設を自由に使うことができる。
ここは利用者同士の交流を促進するオープンスペース
そんな墨田区が新たに立ち上げた施設とあって、注目を集めているSIC。
ほかの類似するスタートアップ支援施設とは主にふたつの違いがあると高橋氏は話します。
「第一は、『ものづくりのまち すみだ』の継承・発展のため、将来の『産業集積のアップデート』の実現を目指していることです。
そのため、スタートアップ支援に特化するのではなく、スタートアップ企業と区内中小企業、あるいは区内の大学、スタートアップ同士などの『共創』を創出することで、スタートアップや区内企業が共に成長するための支援を提供しています。」
共創を創出する機会として高橋氏は、アクセラレーションプログラム「SPARK」(SUMIDA PROTOTYPE ACCELERATION KIT)を挙げてくれました。
「『SPARK』は、創業初期のスタートアップと墨田区内の学生起業家を対象としたプログラムです。
特徴は、スタートアップのニーズに応じて、『事業企画力』『共創プラン』『共創パートナー』を獲得できるプログラムを提供し、受講者の成長につながる支援を行っています。
昨年に続き、第2期生を募集(受付終了)し、10月上旬から2025年2月下旬にかけて、半年間の伴走支援を行います。
プログラムの卒業後は、『SPARK』で獲得した『共創プラン』『共創パートナー』で実証実験を行うため、2022年から始めた『プロトタイプ実証実験支援事業』のエントリーにつなげます」
伴走支援の内容は、「墨田区のものづくり企業や行政との共創」などのテーマで必要な知識を習得するためのワークショップ、個別面談による共創プラン構築の支援や、共創パートナーとなる墨田区のものづくり企業などとのマッチング機会の設定、アクセラレーターとのメンタリング、オン・オフコミュニティ形成や、既にプロトタイプ実証実験に参画している先輩起業家との交流の場を設けるなど多様です。
2025年2月下旬に予定している成果報告会では、スタートアップ業界の関係者などを招き、対外的なプロモーション機会の提供を行い、プログラム卒業後も事業加速をサポートします。
シートには墨田区が一大産地である皮革素材・豚皮を張っている
■硬軟取り混ぜた多様なイベントも成長をバックアップ
続いて、SICと他のスタートアップ支援施設との違いのふたつ目をうかがいました。
「第二の違いは、ものづくりに挑む、ハードウェア系のスタートアップの支援を前面に打ち出していることです。
東京には、ものづくり企業が集積する自治体は他にもありますが、墨田区には印刷・紙加工、金属製品、プラスチック・ゴム製品、機械器具、繊維や皮革製品など、多様な業種の中小企業が集積していることが特徴です。
スタートアップの視点から見れば、業種の選択肢が多く、ものづくりに取り組みやすいと思います」
一方、区内のものづくり企業側も、スタートアップとの共創に期待しているといいます。
冒頭で述べたとおり、23区内で見れば工場数は多いものの、1970年の工場数約9,700ヵ所に比べれば、近年その数は大きく減少。
先行き不透明な時代に、大手企業からの下請けに依存するのではなく、自らがメーカーとして発信する必要性を感じている中小企業は少なくありません。
それだけにスタートアップとの共創は、良い新規事業につながる可能性があるというわけです。
実際、既にSICを介して、スタートアップと区内ものづくり企業の共創事例は生まれているとのことです。
「MOVeLOT株式会社は、人間が実際に乗って操縦体験できる『搭乗型ロボット』の開発および運用を行っています。
2023年に創業したばかりですが、浅草や東京スカイツリーなどの観光地に、高さ約3メートルの機体『ASTRO』を運び、インバウンドを中心に操縦体験を提供。
3年以内の海外展開、10年以内の上場を見込んでいます。
また、ノーコード技術を活用したDX人材育成サービスなどを手がける株式会社セラピアは、墨田区内の中小企業に対して行ったDX支援が高い評価を得ています。
同社は、プロトタイプ実証実験で2年間取り組んだ実績をもとに他の自治体からも着目され、愛知県豊川市、愛媛県ほか全国の自治体にサービスを提供し、事業を拡大しています」
今後もこうした共創事例を創出するきっかけになればとSICで開催されているのが、多様なイベントです。
「ピッチイベントから、町工場見学ツアー、子ども向けものづくりイベント、ランチ交流会、スナック形式の交流会、会員交流会、SICに会員登録している銀行やVCなどの金融機関合同セミナーなど、硬軟取り混ぜたイベントを月に10回以上開催。
SICの会員が自主的に行うものもあれば、我々運営側が主催するものもあります。
いずれにせよ「共創」や「交流」がテーマで、参加される企業や団体、個人は積極的に情報交換を行っています。
これら各種イベントから、この先多くの共創事例が生まれることを期待しています」
ちなみに現在SICに登録している会員は5種類。
まずは、スタートアップ企業が属する<スタートアップ会員>と、スタートアップとの共創を視野に入れている墨田区内のものづくり企業<区内事業者会員>です。
次いで、スタートアップの成長・事業拡大や、墨田区のものづくり企業などとの共創を促進する<パートナー会員>として、金融機関・ベンチャーキャピタル・大企業・メディア・全国各地の支援機関・各自治体など。
さらに、先輩起業家・弁護士・税理士・会計士・行政書士など、スタートアップの成長に必要なプレーヤーとなる<メンター会員>がいます。
また、現在は個人事業主として活動しているフリーのクリエーターやデザイナーなども“スタートアップ会員候補”の<準会員>として登録することが可能です。
「<区内事業者会員>以外なら立地は問いません。
墨田区内企業との『共創』に賛同して事業を展開していただけるのなら、墨田区内はもちろん、日本~海外まで、どこからのアプローチでもwelcomeです!」
スタートアップ企業の担当者が見て、触ることで、これをつくった中小企業との共創が生まれる第一歩に
これは令和5年度の墨田区プロトタイプ実証支援事業に採択された株式会社BAKUAGEが主催する、法人向けの「ニュースポーツ体験会」。
「ベースボール5」「スクエアボッチャ」の2種目を体験(2024/09/11開催)
■墨田区・東京立地のメリット~「人と人の距離感の近さ」が魅力
最後に、墨田区、東京都立地のメリットをお聞きしました。
「都心ならどこでも交通の利便性は高いと思いますが、墨田区内の主要駅である押上駅や錦糸町駅、両国駅は、成田・羽田の両空港からアクセスがいずれも約1時間。
しかも京成電鉄やJR、バスなど乗り換えなし、直通で行けることは大きな強みだと思います。
東京駅、新宿駅、渋谷駅など山手線ターミナルも30分以内で到着できます。
また、オフィスや住宅の家賃も都心の中心部に比べればまだリーズナブルですし、古くからの商店街が多く、物価も比較的安い。
区内で起業、生活ともにしやすいと思います」
助成金については、墨田区独自の制度に加え、国や都、団体などからも受けられる環境が整っており、他区とさほどの差はないとしながらも、
「前述した、2022年開始の『プロトタイプ実証実験支援事業』は採択されれば1社あたり年間200~250万円が助成され、1年目の実証に有効性が確認されれば、最大2年間の実証を行えます。
年間最大5社を採択しています」
高橋氏はさらに、墨田区の長所として「人と人との距離感の近さ」を指摘しました。
「SICで仕事をしていると、当然、区内中小企業の方々とお話をする機会が多く、皆さんの協調性や融和性豊かなマインドに感心することしきりです。
スタートアップ側の難易度の高い相談事にも、持てる技術や経験を駆使して打開策を考えてくださる方は少なくありません。
また、受注者・発注者の関係に留まらず、信頼関係を築き、対等に仕事に臨める場合が多いのは、墨田区のものづくりの歴史が培ってきた伝統だと思います。
SICでは、人と人の距離感の近さも活かしながら、スタートアップという新しい人材と、墨田区内の中小企業との共創による化学反応で『産業集積のアップデート』を進めていきます」
■施設概要
施設名 : 墨田区産業共創施設SUMIDA INNOVATION CORE
所在地 : 東京都墨田区錦糸4-17-1
ヒューリック錦糸町コラボツリー4階
設置 : 墨田区
運営事業者 : デロイトトーマツコンサルティング合同会社
有限責任監査法人トーマツ
デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社
運営パートナー : (施設運営・イベント企画)
株式会社リビタ、株式会社マイキー
(家具設計・デザイン)
有限会社スキーマ建築計画
事業連携パートナー: 株式会社浜野製作所
アーバンデザインセンターすみだ
東京東信用金庫
東武鉄道株式会社
設立 : 2023年(令和5年)10月29日
支援内容 : スタートアップと墨田区内の学生起業家を支援し、
区内のものづくり企業との共創・交流を生み出す拠点