IBSでは、グローバル化社会における幼児期からの英語教育の有効性や重要性に関する情報を、IBSのホームページ上で定期的に発信しています。
IBS「英語教育の有効性や重要性に関する情報」
IBSでは、グローバル化社会における幼児期からの英語教育の有効性や重要性に関する情報を、IBSのホームページ上で定期的に発信!
IBSは、中央大学国際情報学部 斎藤裕紀恵教授のご協力のもと、英語力と年齢に基づいて選定された日本の小学6年生18人を対象にコンピュータを用いた没入型VRプログラム「Immerse(イマース)」と非没入型テクノロジー「Zoom」を用いた英語指導を実施し、それぞれの効果を比較し考察しました。
没入型VRプログラム「Immerse(イマース)」(※)を使った英語学習の一場面
(※)さまざまな状況・場面の仮想環境を提供する語学学習用のVRプラットフォームであり、授業を行う空間として使うことができる。
<論文記事のまとめ>
■研究における問い
(1) 日本の小学6年生のリスニング力発達を手助けするうえで、低没入型VRの学習環境は非没入型のZoom学習環境と比較してどのように違うか?
(2) 教師がこれらのテクノロジーを活用してレッスンを行う場合、教師の指導力の違いによって子どもたちのリスニング力にどのような違いが生じるか?
(3) これらのテクノロジーは、子どもたちの英語学習に対する前向きな態度を促すか?
■研究方法
参加者は、日本の小学6年生18名。
英語力は、実用英語技能検定4級(CEFR A1相当)レベルであり、日常的に使用する主な言語は日本語です。
1人を除く全員が、2歳前から英語に触れていました(接触開始の平均年齢1.125歳)。
Immerseを使って参加する子ども(VR群)とビデオ通話を使って参加する子ども(Zoom群)に分かれ、自宅から英語のレッスンに参加しました。
さらに各グループは、指導経験が10年以上のバイリンガル英語教師が指導するグループ(VR/Zoom-指導経験者群)と、ほぼ未経験で英語力も初中級レベルの大学生2名が指導するグループ(VR/Zoom-指導初心者群)に分かれました。
実験期間は8週間であり、第1週目には生徒たちの英語リスニング力を評価するための事前テストと言語背景を調べるための質問票調査、第2週目にはオリエンテーションを実施。
その後、5週間にわたって「動物園」、「ショッピングセンター」、「緊急事態の発生」、「空港」、「裏庭でバーベキュー」という5種類の場面設定でレッスン(各30分間)が5回実施され、最後の8週目にリスニング力を評価する事後テストと追加の質問票調査が行われました。
■研究結果
1) リスニング力に対する全体的な効果
全サンプルのリスニングテスト平均得点は、全グループにおいても各グループにおいても、事前テストから事後テストにかけて向上が見られました。
全体の得点を算出したところ、リスニングテストの得点には有意な時間効果(事前テスト→事後テストという時間経過による変化)が示されました。
2) 指導環境(VR/Zoom)と指導経験の違いによる比較
全体的なスコアにおいては、VR群のほうが事後テストでより高いスコアを獲得したことが示されました。
しかし、一対比較においては、経験豊富な教師がZoomを用いて指導することが最も重要な因子であることが示されました。
指導初心者が教えたグループは、統計的に有意ではありませんでしたが、事前テストと事後テストの差によりスコアの向上が示されました。
3) 英語学習に対する態度
レッスン終了後の質問票調査によると、全体的にZoom群はVR群よりも今回の学習体験を高く評価しています。
また、圧倒的多数(99%)の子どもたちが、VRやZoomを活用したレッスンに参加した結果、教室環境の外に出て実際の状況・場面で英語を使うことに強い関心を示しました。
レッスンの楽しさについては、経験豊富な教師からVRを活用して学んだグループの生徒たちが全員一致で「楽しい」(4点満点中4点)と評価し、エンゲージメントの高さが示されました。
■考察
先行研究では、没入感が外国語学習において有効な役割を果たすことが確認されています(Tai & Chen, 2021)。
しかしながら、本研究では、没入感を特質とするVRプラットフォームのほうが没入感のないテクノロジーよりも学習者に役立つ、という仮説は確認されませんでした。
参加者全体に見られたリスニングテストのスコア向上は、VRの没入感から影響を受けたというよりも、レッスンの話題についての知識が貢献した可能性があります。
生徒たちは、特定の話題に基づいたレッスンを受け、同じ状況・場面(例:ショッピングセンター、動物園など)を用いた出題内容のテストを受けました。
これにより、話題に関連したことばを手がかりにしながらテストを受けることができ、全体的なスコア向上が見られたと考えられます。
文脈そのものが第二言語学習者の言語発達に重要な役割を果たした可能性があります(Goh & Vandergrift, 2022)。
VR群とZoom群の間に見られた差については、レッスン中の英語インプットに注意を向け続けられる能力の差に起因する可能性があります。
VR群は、仮想環境の中を自由に動き回り、注意散漫になりやすい様子でした。
一方、Zoom群は、この仮想環境の場面をスクリーンショット撮影した画像を見てPC画面上で操作するタスクが与えられましたが、その状況・場面で使用される言語に注意を払いやすくなり、事後テストにおけるスコア向上につながった可能性があります。
VR空間での学習に関する文献によると、生徒はアバターを使用することでレッスン中に安心して話したりやりとりしやすくなり、不安を軽減するのに役立つ方法であることが示唆されています(Thrasher, 2022)が、低年齢の学習者には当てはまらない可能性があります。
アバターを使用すると、生徒と教師がお互いに表情が見えにくく、観察に基づく考察ではありますが、お互いの反応がわかることはエンゲージメントのレベルに影響を及ぼしているように見えました。