大里研究所は、イタリア・ミラノ大学のMarottaらとの共同研究により、同研究所開発のFPP(パパイヤ発酵食品)による臨床試験において新たな成果を発表しました。
大里研究所 FPP(パパイヤ発酵食品)臨床試験
同研究は、2年間にわたり中高齢者の免疫・血管・細胞の老化に対し、FPPまたは抗酸化サプリメントの効果を比較検討したものであり、その結果が2024年1月発刊学術誌「Functional Foods Science」に掲載されました(1)。
FPPによる、免疫老化に関連する指標の改善は、予防医学の視点において超高齢社会における健康寿命の延伸に向けて新たな可能性を示す知見です。
はじめに
FPPは、遺伝子組換えでないパパイヤを独自の技術により長期発酵させた自然な甘さを有する顆粒状の食品です。
これまでの臨床研究では、優れた抗酸化能に加えて、免疫機能が低下している2型糖尿病患者の細胞内エネルギーの向上および免疫機能の改善が認められ、『ATP産生促進剤 及び ミトコンドリア活性促進剤 並びに免疫賦活剤, 特許第6401792号』として日本国特許庁に登録されました(2)。
また、脳血流の低下を有し、認知症のハイリスクグループとして知られる電磁波過敏症患者においては、脳血流改善および認知機能向上が認められ、『電磁波過敏症の治療法』として米国特許商標庁に、『電磁波過敏症を治療するための医薬組成物』として日本国特許庁に登録されています(3)。
FPPは、身体の防御機構および認知機能を維持するためのツールとして期待されています。
免疫と老化
免疫とは、外敵となる細菌・ウイルスなどの微生物や異物から、自分たちの身体を守る機能です。
この免疫機能には、自然免疫と獲得免疫があります。
自然免疫は、細菌やウイルスなどの侵入者に対して、好中球やマクロファージなどの貪食細胞がいち早く感知し取り除くため、生体防御の最前線を担います。
一方、獲得免疫は、リンパ球が中心となり、過去に排除した異物の記憶能力を有するため、同じ病原体に出会った時に病原体を効率的に排除する役割を担っています。
しかし、免疫機能は、運動能力・視力・聴力と同じ様に加齢により衰え、病原体に対する抵抗力が弱くなり、これを「免疫老化」と言います。
免疫老化は、過剰/慢性的な炎症反応や免疫細胞(Tリンパ球の減少など)による獲得免疫反応の機能低下が起こり、代謝性疾患・がん・自己免疫疾患などの加齢性疾患を増加させることが知られています。
この白血球のバランスを示す指標の一つに、NLR(好中球/リンパ球比)があり、NLRの高値は炎症の程度が重いことを示します。
またリンパ球の減少は、がんに対する免疫機能の低下と関連しているため、NLR高値は予後が悪いとする研究結果も報告されています。
そのため、白血球のバランスを維持し免疫老化を抑制することで、多くの加齢性疾患の予防につながると考えられます。
老化に関連する指標に対するFPPの有効性
Marottaらによる研究は、被験者(106名)をFPP群または抗酸化サプリメント群に分け、2年間にわたる二重盲検法を実施しました。
試験期間中は、午前中に採血しNLR、ADMA、PBMC(ヒト末梢血単核細胞)のアポトーシスおよび尿中8-OHdGを測定しました。
また、0日目および11ヶ月目には、SF-36による健康関連QOLを評価しました。
本研究では、離脱した8名を除き臨床的に安定していた健康な男女98名(年齢: 58-76歳)を分析しました。
1年目: NLRは、FPP群および抗酸化サプリメント群に差を認めませんでしたが、6ヶ月目から8-OHdG、ADMAおよびPBMCのアポトーシスが、FPP群のみ有意に減少しました(図b, c, d)。
また、11ヶ月目には、身体機能・活力・全体的健康感・心の健康に関するQOLが改善しました(P < 0.01)(4)。
2年目: NLRは、24ヶ月目において抗酸化サプリメント群での有意な増加を認めました(図a)。
8-OHdGは、BMI27以上または70歳以上の被験者において、両群とも減少しましたが、FPP群のみ、ADMAとアポトーシスの有意な減少を認めました(図b, c, d)。
また、FPP群では、11ヶ月目からNLRとアポトーシスに強い正の相関があり、NLR値の上昇はアポトーシス頻度の増加につながることが示されました。
これは、BMI 27以上または70歳以上の被験者において顕著でした。
おわりに
FPPは、中高齢者において加齢により増加する生体内の酸化ダメージを防ぐだけでなく、慢性炎症を起こす免疫老化・および血管老化を抑え、体内の若さを維持する3つの保護効果が示唆されました。
ATPに関する特許取得となった自然免疫活性化の臨床研究と併せて、COVID-19を経て様々な感染症のリスクが高まる中高齢の方にとって、FPPによりリンパ球数を維持する効果は朗報と考えられます。
自然免疫と獲得免疫を担う免疫細胞の機能維持において、FPPはシニアの方々にとって欠かすことのできない発酵食品の一つとして期待されます。
今後も、FPPの研究を進め、超高齢社会における健康寿命延伸の実現を目指していくとのことです。
■引用文献
(1) Lorenzetti, A., Ayala, A., Marotta, F., et al. (2024)Neutrophil-Lymphocyte Ratio and Update Conclusions from a 2-Year Double-blind RCT Testing Fermented Papaya Preparation in Healthy Middle-Aged/Elderly Subjects. Functional Food Science, 4(1),29-41.
(2) Dickerson, R., Banerjee, J., & Roy, S., et al: (2015). Does Oral Supplementation of a Fermented Papaya Preparation Correct Respiratory Burst Function of Innate Immune Cells in Type 2 Diabetes Mellitus Patients? Antioxidants & Redox Signaling. 22(4),339-345.
(3) Irigaray, P., Garrel, C., & Belpomme, D., et al: (2018) Beneficial Effects of a Fermented Papaya Preparation for the Treatment of Electrohypersensitivity Self-Reporting Patients: Results of a Phase I-II Clinical Trial with Special Reference to Cerebral Pulsation Measurement and Oxidative Stress Analysis. Functional Foods in Health and Disease, 8(2),122-144.
米国特許商標庁:電磁波過敏症の治療法, US10,993,980 B2
日本国特許庁 :電磁波過敏症を治療するための医薬組成物, 特許第7026387号
(4) Lorenzetti, A., Osato, M., Barbagallo, M. et al (2023) Interim Report from a 2-year Double-blind RCT Testing Fermented Papaya Preparation on Immune Enhancement, Endothelial Health and QOL in Elderly Adults
Functional Foods in Health and Disease., 13(2),69-81.