芝浦工業大学の工学部応用化学科・吉見 靖男教授らの研究チームは、特定の神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、アセチルコリン)を検出する蛍光性分子インプリント高分子ナノ粒子の合成に成功しました。
本研究の成果は、脳内を拡散移動する神経伝達物質を選択的に検出する方法が実現する可能性を示しています。
伝達物質が移動する様子を可視化することによって、脳内の情報処理の本質に迫り、脳神経疾患の治療や、脳の機能を模倣したコンピュータの開発に道を開くことが期待できます。
芝浦工業大学 蛍光性分子インプリント高分子ナノ粒子の合成
芝浦工業大学の工学部応用化学科・吉見 靖男教授らの研究チームは、特定の神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、アセチルコリン)を検出する蛍光性分子インプリント高分子ナノ粒子の合成に成功しました。
神経細胞は、神経伝達物質と呼ばれる小さなメッセンジャー分子を介して互いにコミュニケーションすることで、多くの複雑なタスクを実行しています。
神経伝達物質を正確に検出することは、私たちの脳の機能を理解する上で極めて重要です。
研究チームは、これまで困難とされてきた低分子量の神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、アセチルコリン)を検出するプローブとなる蛍光性分子インプリント高分子ナノ粒子(fMIP-NP)の合成に成功しました。
fMIP-NPの合成では、複数のステップが必要となります。
まず、検出したい標的神経伝達物質をガラスビーズ表面に固定。
次に、鋳型との結合、架橋、蛍光という異なる機能を持つモノマー(ポリマーの構成要素)がビーズの周囲で重合し、神経伝達物質を包み込みます。
そして、できたポリマーを洗い流すと、神経伝達物質の分子構造が鋳型として刷り込まれたナノ粒子が得られます。
fMIP-NPは脳内で対応する神経伝達物質を検出することができるのです。
目的の神経伝達物質が空洞の中に収まると、fMIP-NPは膨張して大きくなります。
これにより、蛍光性モノマー間の距離が長くなり、蛍光を抑制する自己消光を含む相互作用が減少することが示唆されました。
その結果、蛍光の強度が増し、神経伝達物質の存在を示すようになることを、当時学部生の大澤直弥さんが見出しました。
さらに、神経伝達物質を固定する密度の調整が、検出の特異性に重要な役割を果たすことが判明。
神経伝達物質であるセロトニンとドーパミンをガラスビーズ表面に付着させるためには、大きさの異なる固定剤をブレンドして伝達物質の密度を調整すると良いことを、当時大学院生の勝俣 湧斗氏が発見しました。
密度を調整したfMIP-NPは、セロトニンとドーパミンを特異的に検出されました。
一方、純粋な固定剤で合成したfMIP-NPは、構造が類似した物質に対し、セロトニンやドーパミンと誤って反応しました。
神経伝達物質アセチルコリンは同様な方法ではガラスビーズに固定できませんでした。
そこで、アセチルコリンと構造が類似した部位を持つ高分子を、アセチルコリンのダミーとして代わりに固定し、鋳型としました。
その結果、アセチルコリンと高選択的に反応するfMIP-NPを合成できました。
タンパク質のプローブはイメージングに必要な量を得られるのに数ヶ月かかるのに対し、本センサは2-3日で得られます。
本研究の成果は、脳内を拡散移動する神経伝達物質を選択的に検出する方法が実現する可能性を示しています。
拡散は方向性のない移動なので、正確さが要求されるはずの神経間のシグナル伝達が、そのような移動方式に委ねられているのは、工学的には非合理的に思われます。
この伝達物質が移動する様子を可視化することによって、脳内の情報処理の本質に迫り、脳神経疾患の治療や、脳の機能を模倣したコンピュータの開発に道を開くことが期待できます。
芝浦工業大学が合成に成功した「蛍光性分子インプリント高分子ナノ粒子」研究成果の紹介でした☆