すみだ北斎美術館では、2022年9月21日から11月27日まで「北斎ブックワールド」を開催!
本に仕立てた「板本」に注目し魅力を伝える企画展です。
すみだ北斎美術館「北斎ブックワールド」
会期:2022年9月21日(水)~11月27日(日) ※前後期で一部展示替えを予定
前期 9月21日(水)~10月23日(日)/後期 10月25日(火)~11月27日(日)
休館日:毎週月曜日 ※開館:10月10日(月・祝)、休館:10月11日(火)
開館時間:9:30~17:30(入館は17:00まで)
主催:墨田区・すみだ北斎美術館
観覧料:AURORA(常設展示室)、常設展プラス観覧料含む
通常料金一般1,000円、高校生・大学生700円、65歳以上700円、中学生300円、障がい者300円、小学生以下無料
浮世絵と聞くと、「冨嶽三十六景」のような一枚の紙に摺られた木版画がイメージされます。
もともとそうした一枚摺の木版画は、板木に文字や挿絵を彫って摺ったものを本に仕立てた「板本(はんぽん)」から、次第に絵のみが独立したともいわれます。
浮世絵師・葛飾北斎(1760-1849)は、板本にも絵を描いており、物語の挿絵であったり、自らの絵を集めた絵手本(えでほん)であったりと、たくさんの板本を出版しました。
北斎絵手本の代表作として知られる『北斎漫画』には、江戸時代の板本を読む人々が描かれています。
人々がくつろぎながら読みふけって楽しむ様子は現在と変わりません。
本展では、このような板本に注目し、その魅力をお伝えします。
※摺られた本は版本とも表記しますが、北斎が活躍した江戸時代後期の本は、一枚の板を彫った板木を摺ってつくる本が主流であったため、本展では板本の表記を使用します。
展示構成
序章 板本の中の板本をよむ人々/1章 板本の基礎知識/2章 板本に関するトピックス/3章 所蔵者・読者の痕跡/4章 板本の優品
見どころ
◎展示室にずらりと並ぶ板本、約110点!
北斎や門人によって挿絵が描かれた板本は、絵画表現が工夫されているため、内容に惹きこまれます。
本展では北斎や門人が描いた板本、前後期あわせて約110点を展示。出版文化が花開いた江戸時代に、読者が感じていた「読む」楽しさを紹介します。
◎知れば知るほど奥が深い!【ここに注目】パネルで解説。
板本に関する用語のほか、作品の注目すべき点や、端々に残る読者・所蔵者の痕跡をパネルで解説。ポイントをおさえながら鑑賞していくと、見終わる頃には板本の世界に夢中!?
1章 板本の基礎知識
北斎が浮世絵師として活躍する頃には、板本の大きさや形式などが定まっていました。
本章では、板本を鑑賞するための予備知識として、本を学問の対象としている書誌学の成果に基づき、板本の形態や、板木や包み紙、内容(ジャンル)による分類など、板本に関する基礎的な知識を紹介します。
◎キーワード:読本(よみほん)
読本(よみほん)とは、歴史に題材をとり、勧善懲悪、因果応報を伝える趣旨で書かれた小説です。
絵を中心とする黄表紙などに対して文章を読む本という意味で、読本と呼ばれています。江戸時代では最も知的で格調高いとされる小説でした。
挿絵は本文とは別の頁にあり、内容に即した刺激的な挿絵が入れられています。
『椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)』は、伊豆大島に配流された平安末期の武士・源為朝が琉球にわたり活躍する読本で、江戸時代のベストセラーとも評されます。
本図は物語の一場面で、琉球王朝の忠臣、陶松寿(とうしょうじゅ)が一太刀で毒蛇を倒す様子が描かれています。
◎キーワード:絵手本(えでほん)
絵手本(えでほん)は、狭義では絵を習うための手本のことですが、実際には北斎の絵を鑑賞したい人が購入したり、職人が下図として利用したりもしていました。
『略画早指南(りゃくがはやおしえ)』は、コンパスと定規による円と線で、描く対象物のおおまかな形を描けることを解説した北斎の絵手本です。
このページでは、松坂踊という踊りと、川で魚を取る川狩の描き方が解説されています。
2章 板本に関するトピックス
板本をみていると、北斎や門人が板本のために工夫した絵画表現などが目にとまります。
また、板本は手作りのため全く同じものはありません。
同じ書名でも見比べてみると、薄墨(うすずみ)や濃墨(こずみ)が省略されていたり、細かな部分が変わっていたりする例もあります。
2章では、板本の挿絵にみられる絵画表現や、現在から考えると少し変わった事例などの紹介、初摺(しょずり)と後摺(あとずり)などの比較など、板本の奥深さをみることができます。
◎注目!後摺では濃墨(こずみ)が省略!?
読本『飛騨匠物語(ひだのたくみのものがたり)』は、飛騨の名工・猪名部墨縄が、様々な機関(からくり)を作って活躍し、仙人の世界を追われた男女を結婚させるという物語です。
『新板 飛騨匠物語』はその後摺にあたります。後摺とは、初摺の板木を再び使用して摺られたものを指します。
両書の挿絵を比較してみると、姫君が将来の夫たちを夢にみる場面で、初摺(上)は夢の中の夫たちの背景を濃墨にすることで、寝ている現実の姫君と対比させています。
後摺(下)では濃墨が省かれ、夢と現実の境目がわからなくなっています。
◎注目!まるで絵巻物のような板本
『絵本隅田川 両岸一覧』は、隅田川を下流から上流へと遡った両岸の景色が描かれた板本です。
前の見開きの図柄と次の見開きの絵柄がつながるように仕立てられており、ページをめくりながら絵巻物のように鑑賞することができる点が特徴です。
本展では見開き3ページ分の絵柄がつながった状態で鑑賞できるように展示します。
3章 所蔵者・読者の痕跡
すみだ北斎美術館が所蔵している板本は、江戸時代に作られた後、数人の手を経て伝えられてきたものです。
板本には蔵書印や、所蔵者や読者による書き込みなどがみられます。
大事に伝えられてきた証、ときには心無くいたずら書きされてしまったものなど、北斎が生きた時代から現在までの150年以上の間にのこされた、所蔵者・読者の痕跡を紹介します。
◎注目!入手の嬉しさの書き込み
『百人一首 古今狂歌袋』は、紀州徳川家15代当主・徳川頼倫、浮世絵研究者・楢崎宗重が旧蔵していたものです。
本書に付属している帙(ちつ、本を保護するために包むもの)の内側には、楢崎宗重による手書きのコメント(昭和壬寅之年首夏 偶然ニこの美本を入手し 嬉しさのあまり座右ニ備えて玩賞 これを恒とす)が記されており、本書を入手した喜びが伝わってきます。
※「楢崎宗重」の名前について、機種依存文字に該当するため通常の「崎」で代用しておりますが、「立崎」が正式です。
◎注目!北斎の絵をまねた落書き
葛飾北斎『橋供養』巻之二には、巻之一の北斎の口絵の人物をまねた拙い絵(落書き)が書き込まれています。
落書きをした人は、教科書へ落書きをする現代の私たちと同じ気持ちだったかもしれません。
本書は料金を取って本を貸し出すことを商売とする貸本屋(かしほんや)が所蔵していたものです。
貸本屋に所蔵されていた本は、多くの利用者に読まれたため、読者の感想などのコメントが書き込まれていたり、逆に貸本屋から利用者に宛てて落書きをしないように記している事例も見られます。
4章 板本の優品
板本には墨一色で摺られた本が多いですが、錦絵のような多色摺の本もあります。
本の形のため、閉じた状態で保存されてきたことで、褪色が少なく非常に鮮明な色のまま伝えられている板本もあります。
4章ではそのような優品や遺存数の少ない希少本、また北斎のターニングポイントになった板本を展示します。
◎必見!すみだ北斎美術館初公開の希少本
寛政から享和(1789-1804)の頃には、狂歌をたしなむ人々の間で豪華な狂歌本が盛んに出版されました。
『さむたらかすみ』もその一つです。
北斎による挿絵は、近景に長閑な田舎の風景が画面全体に描かれ、子どもを負んぶする女性や、小川で鎌を研ぐ農夫、行楽に訪れた娘と婦人などが描かれます。
遠景には社の鳥居や鶴などを小さく配置し、奥行きが表現されています。
遺存数も数点しか知られていない希少な板本で、当館初公開です。
◎必見!美しく鮮やかな銀色の波
本図は、魚屋北溪(ととやほっけい)が狂歌本『三都廼友会(みつのともえ)』に寄せた挿絵です。
北溪は北斎門人の中でも優れた浮世絵師として知られています。
隅田川の渡し船の情景が描かれ、月が照らす波の表現には銀摺(ぎんずり)が用いられています。
収載された狂歌師のなかには、狂歌堂島人(人吉藩主・相良頼徳)や歌垣綾麿(綾部藩主・九鬼隆度)などの大名も含まれており、出版の助力をした可能性も考えられ、大変美麗な本となっています。
「板本」の魅力を伝える企画展!
すみだ北斎美術館「北斎ブックワールド」の紹介でした☆