記事ポイント
- 国指定重要文化財の大玄関に約3.8メートルの淡墨桜の大屏風
- 屏風・掛け軸・着物・団扇など伝統工芸との協働作品
- テーマは「不完全さの受容」
京都・東本願寺の国指定重要文化財「大玄関」で、Pangraphicsが主催する、グラフィックデザイナー/アートディレクター矢後直規によるグラフィック展『Pangraphics(パングラフィクス)』が2026年11月1日(日)に開幕しました。
会期は2026年11月8日(日)までで、入場は無料です。
屏風、掛け軸、着物、団扇など、職人との協働で生まれた作品群が1867年建立の歴史的建築に並びます。
東本願寺 大玄関 矢後直規 グラフィック展『Pangraphics』

- 名称:矢後直規 グラフィック展『Pangraphics』
- 会期:2026年11月1日(日)〜11月8日(日)
- 会場:真宗大谷派 東本願寺 大玄関(国指定重要文化財)
- 所在地:京都府京都市下京区烏丸通七条上る
- 開館時間:10:00〜16:00(最終入場15:30)
- 入場料:無料
- 主催:Pangraphics
- 協力:真宗大谷派(東本願寺)、京表具井上光雅堂、銀座もとじ、東山堂、蜂屋うちわ職店
- 後援:京都市、京都市教育委員会
アートディレクター/グラフィックデザイナーの矢後直規が、日本の伝統的な表現や思想からグラフィックデザインを捉え直し、アート表現へ昇華させる初の展覧会です。
主催は、矢後直規と琴浦義通が共同代表を務めるPangraphics(東京都渋谷区)です。
近年は漫画家・井上雄彦氏による展覧会やKYOTOGRAPHIEなど限られた文化プロジェクトの会場となってきましたが、グラフィックデザイナーの個展としては今回が初の起用です。

通常のギャラリーや美術館とは異なる宗教的・歴史的空間に、矢後が描いた桜や紅葉、孔雀、四季折々の花々をモチーフとする作品が展開されます。
作品、建築、素材、光が相互に関わり合う展示空間が広がります。
展覧会タイトルの『Pangraphics』は「グラフィックデザインのすべて」を意味します。

テーマは「不完全さの受容」です。
矢後が制作で一貫して掲げる「Humane Error(ヒューメインエラー)」は、にじみや汚れ、制作時の補助線といった人間的なミスやエラーをあえてデザインに取り込む考え方です。
人間を不完全な存在として受け入れる浄土真宗の「凡夫性」という思想にも通じ、「人は不完全な存在である」という人間観を静かに問いなおします。
グラフィックデザインが世界中で均一化する現代に、人の手による表現や偶発性、自然と人間の関係へ目を向け、デザイン本来の可能性を問いなおす展覧会です。
矢後は2026年秋放送予定のNHK連続テレビ小説『ブラッサム』で、タイトルロゴおよびビジュアルデザインを担当しています。
伝統工芸との協働で広がる展示作品
矢後の手描きの図像を起点に、日本各地の職人や工房と協働して多様な作品を制作しました。
グラフィックデザインを紙やデジタル上の視覚表現にとどめず、素材や技法、身体性を持った作品へ広げる試みです。
このほか、過去作品のインスタレーションも展示されます。
淡墨桜余花図屏風

- 協力:京表具井上光雅堂
- サイズ:W3,778mm H1,723mm(六曲半双)
小説家・宇野千代ゆかりの「淡墨桜」をモチーフにした、六曲半双の大屏風です。
約3.8メートルに及ぶ画面に、桜の儚さと生命力、生と死の重なりを象徴的に表現しています。
モチーフの淡墨桜は、約1500年にわたり人の手で支えられながら生き続けてきた日本の固有種で、人間の不完全さや人が介在して生まれる価値とも重なります。
手描きの原画を制作した後、デジタル上で構成し直して絵図として完成させる、アナログとデジタルを往復する手法も特徴です。
淡墨桜文様訪問着

- 協力:銀座もとじ
淡墨桜の図像を、呉服店・銀座もとじとの協働で一点ものの訪問着に展開した作品です。
江戸時代から受け継がれる手描き友禅の技法を用い、京都の熟練した職人が淡墨桜を再現しました。
平面の図像が人の身にまとうことで完成する着物へ変わる過程では、染織の職人たちと対話を重ねて図案や表現を練り上げました。
男着物の文化発信にも力を入れる銀座もとじと過去に制作した長襦袢作品「モダンボーイ(モボ|Mobo)」も会場に展示されています。
紅守|朴造
- 協力:東山堂
古くから魔除けや護身の意味を持つとされてきた「守り刀」を着想源にした作品です。
新作《平安紅葉図》の図像を、朴の木の刀身に落とし込みました。
切る道具ではなく人を守る象徴として受け継がれてきた刀の文化に着目し、紅葉の図像と重ねて新たな「守り」のかたちに再構成しています。
平安紅葉図
淡墨桜の絵図に続く、本展の新作の中心となる紅葉の絵図です。
京都の紅葉は自生種ではなく、人々が長い時間をかけて植樹し守り育ててきた景観であることから、「人の営みによって千年守られてきたであろう一本の紅葉」を想像して描きました。
大玄関が建立された江戸時代に最盛期を迎えた琳派に通じる金の表現や、古来の岩絵具を使うなど、日本画の手法を取り入れた新たな挑戦です。
桃蕾図団扇

- 協力:蜂屋うちわ職店
- サイズ:長辺約H400mm(持ち手なし)
桃の蕾をモチーフに、蜂屋うちわ職店と制作した大団扇です。
大団扇は通常より大きく仕立てられ、祭礼や舞台、装飾など人の身体や空間と関わりながら用いられてきました。
約400年受け継がれる団扇づくりの技法で、矢後が描いた和花の図像を一枚の大きな面へ展開しています。
蒲公英図団扇

- 協力:蜂屋うちわ職店
- サイズ:長辺約H400mm(持ち手なし)
蒲公英をモチーフにした、蜂屋うちわ職店との協働による大団扇です。
日用品である団扇を、空間の中で鑑賞する支持体として捉え直した作品です。
新鳥獣図|青孔雀

- 協力:京表具井上光雅堂
- サイズ:W1,820mm H910mm
過去作「新鳥獣図」のひとつで、浄土真宗の本堂にも描かれる孔雀をモチーフとした掛け軸です。
矢後にとって孔雀は、グラフィックデザインそのものを象徴する存在です。
グラフィックデザインは「美しく見せること」で成立する一方、繊細で脆く常に緊張感を抱えており、美しく羽を広げ続ける孔雀はその在り方を重ねたメタファーです。
新鳥獣図|白孔雀

- 協力:京表具井上光雅堂
- サイズ:W1,820mm H910mm
過去作「新鳥獣図」のひとつで、孔雀をモチーフにした掛け軸です。
同じ「新鳥獣図」として、美を追い続けるグラフィックデザインの姿を孔雀に重ねています。
新作 ドローイングシリーズ
- 協力:京表具井上光雅堂
- サイズ:W150mm H450mm
百合、蓮、蒲公英、椿、梅など、日本の花々をモチーフにした作品群です。
日本の文化や精神性と深く結びついてきた「和の花」を選び、淡墨桜の絵図の手法で切り花を「生と死の境界」というテーマで表現しました。
日本画で古くから使われてきた岩絵具を、初めて使用して制作しています。
展覧会記念オリジナルグッズ
- うちわ価格:未定
展示作品と同様に、蜂屋うちわ職店と制作したオリジナルのうちわが用意されます。
新作シリーズの和花がモチーフで、一点一点手作りのため点数に限りがあります。
このほかにも、インテリア雑貨や旅のお土産に使えるオリジナルグッズが多数並びます。
矢後直規

矢後直規は、1986年静岡県生まれのアートディレクター/グラフィックデザイナーです。
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業し、博報堂を経てSIXに所属、2025年にPangraphicsを設立しました。
東京ADC賞、JAGDA新人賞、D&AD、New York ADC、One Showなど国内外で受賞しています。
ZIPAIRやSENSAI、Laforet HARAJUKUなどのアートディレクションを手がけながらアートワークを発表しています。
2020年にはラフォーレミュージアム原宿での個展「婆娑羅」、香港PMQでの「Imitative Behaviour」など、国内外で展覧会を開催しました。
関連イベント

- 原画展:京都・SO/SPACEにて「Pangraphics 原画展」/2026年11月1日(日)〜15日(日)/12:00〜17:00
- 短刀『紅守』特別展示:京都・東山堂 祇園八坂店/10月31日より
京都・SO/SPACEでは、東本願寺の作品の出発点となった色鉛筆による原画を展示する「Pangraphics 原画展」が開かれています。
紙の上に残された線や色彩、手描きならではの表情から、東本願寺の作品のもうひとつの姿に触れられます。
京都・東山堂 祇園八坂店では、宇野千代が愛した淡墨桜をモチーフに桜の図案を岩絵具で拵に描いた短刀『紅守』が特別展示されています。
東山堂とのコラボレーションプロダクト「FIREWORK」は、三徳包丁とペティの2種類が販売されます。
FabCafe Kyotoでは、2026年10月29日に制作過程や未採用案を公開するトークイベント「未完成の拝観」、10月30日に銀座もとじ二代目 泉二啓太、写真家 瀧本幹也との「表現が交わる場所」も開催されました。
『Pangraphics』は、国指定重要文化財の大玄関という特別な空間で、グラフィックデザインと日本の工芸が交わる展覧会です。
入場無料で、10:00〜16:00(最終入場15:30)に2026年11月8日(日)まで楽しめます。
撮影:瀧本幹也








