「自然災害被災者支援促進連絡会」は、阪神・淡路大震災以降、「被災者生活再建支援法」をはじめとして自然災害被災者の生活再建の支援に関するあり方について、総合的な見地から調査・研究をおこないました。
令和6年能登半島地震で見えてきた課題と今後の災害対策に向けて
「自然災害被災者支援促進連絡会」は、阪神・淡路大震災以降、「被災者生活再建支援法」をはじめとして自然災害被災者の生活再建の支援に関するあり方について、総合的な見地から調査・研究をおこなってきました。
2024年6月に開催したミニシンポジウム「令和6年能登半島地震で見えてきた課題と今後の災害対策に向けて」にて、専門家・活動家から能登半島地震の被災地の現状と復興に向けた示唆や今後の災害対策についての提言がきた内容を公開します。
■ミニシンポジウムの概要
タイトル:「令和6年能登半島地震で見えてきた課題と今後の災害対策に向けて」
開催日時:2024年6月14日(金)9:30~11:30 ※オンライン併用
会場 :連合会館4階401会議室 東京都千代田区神田駿河台3-2-11
主催 :自然災害被災者支援促進連絡会
(連合・日本生協連・兵庫県・こくみん共済coopグループ)
【プログラム】
<基調講演>
室崎益輝(むろさき・よしてる)氏[神戸大学名誉教授]
防災研究の第一人者で、石川県の災害危機管理アドバイザーも務めてきた経験者。
1月6日より能登入りして、現地の状況を詳細に視察し、情報を発信している。
<報告会>
(1)津久井進(つくい・すすむ)氏[弁護士]
法律家の視点を防災に活かすため、各地の復興支援に駆けつけ支援活動を積極的におこなうとともに、被災者生活再建支援法の改正への取り組みや災害ケースマネジメントの提唱などの活動もおこなっている。
(2)菅野拓(すがの・たく)氏[大阪公立大学大学院文学研究科人間行動学専攻准教授]
近年の大規模災害を踏まえ、被災者生活再建支援手法のモデル化を行う。
内閣府「被災者支援のあり方検討会 」委員などを務める。
(3)澤上幸子(さわがみ・さちこ)氏[一般社団法人 社会的包摂サポートセンター 被災者専門ラインコーディネーター、NPO法人えひめ311事務局長]
東日本大震災の際に福島で被災し、現在は愛媛在住で「よりそいホットライン」で被災者専門の相談に応じている。
■「思いや夢のある『真』の創造的復興を」神戸大学名誉教授 室崎益輝 氏
能登半島地震は強い力による破壊と地域社会の地理的な脆弱性が作用して、天災と人災の掛け算により甚大かつ濃密な被害がもたらされました。
こういった前例のない地震にどう立ち向かうのかという点で、私たちは自然の力と人間の力を正しく理解しなくてはいけません。
想定外の大地震でも壊れない家を建てるということは人間の力では限度があります。
したがって被害を減らすこと以上に、被害が起きてからの対応をどうするかということに力を入れるべきです。
生活再建やコミュニティ再建のスピード化を図り、関連死や孤独死を防ぎ、本来は長くても2ヶ月くらいを想定している仮設避難所生活を半年以上続けているような状況から脱却するなど、迅速に復興が進むような仕組みと制度をどう作るのかということが非常に厳しく問われています。
逆に、能登半島地震は阪神・淡路大震災の3倍も建物の全半壊率が高かったのに、壊れた家屋あたりの死者数が1/3でした。
それには色々な理由がありますが、近所の助け合いによる救出が大きく関係しており、コミュニティの力強さが救助の段階で強く発揮されたことは着目すべき点です。
能登の復興に向けて、今の「被災者生活再建支援法」や既存の制度では対応しきれなくなってきているので、住宅だけでなく生活全体・コミュニティ全体をサポートしていくような、新しい被災者の自立を促す「制度」が必要になってきています。
大企業も含めて地域の産業をもとに戻す「なりわいの再建」や、お金をばらまくのではなくて被災者自身が制度やお金を使って自立をしていくような「引き出す支援」、そして支援制度から漏れる人が出ない「隙間の無い支援」も非常に重要です。
例えば能登半島地震で仮設住宅に入った方々は仮に5年程度我慢すれば公営住宅に住めるようになります。
そういう方は多くて2万人くらいです。
それ以外の5万~6万人の大きな被害を受けた方々は、その間どのように過ごすのかという答えは用意されていないのです。
今までの避難所から仮設住宅、そして公営住宅へという単線的な制度設計の再建では隙間が生じてうまくいかなくなっています。
復興は、どうしても区画整理だとか人口減少を防ぐといったことから入ってしまいがちなのですが、みんなの夢をつないで「復興後は素晴らしい集落になる」という確信がないと、前に進みません。
過去、世界中の復興の取り組みで共通して言われた「思いを先に形を後に、外を先に内を後に」が重要です。
制度ではなくて、被災者にどうしてほしいのかと声を聞くことが先なのです。
ただ、自立を促すうえでは、住宅再建も早く進めることが大切です。
そのためにもやはり「ビジョン・思い」が重要です。
お金がかかってでも5年くらい安心して住めるような木造の仮設住宅を建てるとか、町の雰囲気にとけこむような仮設住宅をつくるなど、夢のないプレハブ前例主義から脱却をして、能登のそれぞれの集落に住む人たちの思いや夢を実現した真の復興をすすめてほしいと思います。
■「被災者生活再建支援法の改善を」弁護士 津久井進 氏
1947年に施行された「災害救助法」以降、「災害対策基本法」、「災害弔慰金法」、さらに阪神・淡路大震災を契機に「被災者生活再建支援法」ができ、2007年に改正されて今の仕組みになりました。
この法律で多くの人が救われたことも事実ですが、まだ改善が必要です。
例えば、実際には生活に大きな支障があるほど壊れた家なのに、罹災証明で半壊や一部損壊などに認定されると基礎支援金の対象外になってしまいます。
支援金の財源不足と言われますが、お金がないのではなく仕組みがないのです。
また、世帯ではなく被災者一人ひとりから声をきいて支援をすることがとても大事ですし、地域や条件で支援に差が出ないよう、同一災害の被害には同一の支援をするということも大事です。
そしてこの法律は建物の再建ではなく「生活の再建」が目的なので、内閣府が制度にした「災害ケースマネジメント」のように、罹災証明書だけでみるのではなく建物以外のさまざまな被害もふまえて被災者一人ひとりに寄り添い、個別に必要な支援をすることが必要です。
■「『人』を中心にした社会保障としての被災者支援を」大阪公立大学大学院文学研究科人間行動学専攻准教授 菅野拓 氏
被災者支援で中心とすべきなのは「人」であり、「人の生命・人の財産・人の暮らし」です。
しかし災害の法律は「物」を中心にしすぎています。
人を中心に置くためには、「社会保障として被災者支援を考える」ことが非常に重要です。
具体的には、「災害救助法」に医療はあるが福祉がなく配慮が必要な人ほど厳しい環境におかれてしまうので、災害救助法に福祉的な支援を位置付けることが必要です。
また、平時に民間が担っているサービスを、災害時には急に地方自治体が担うから混乱が生じてしまうのです。
災害時も民間の力を活かせるように、民間と行政が連携して対応する必要があります。
そして、社会福祉法などの社会保障関係法の中に被災者支援が位置付けられておらず、社会保障に関係するプロが被災者支援で活動することになっていないことも課題です。
災害時に対応できる人材や体制を、社会保障関係法の中で育成・整備しておくことがとても大切だと考えます。
■「被災者・避難者の声を社会へ届けたい」一般社団法人 社会的包摂サポートセンター 被災者専門ラインコーディネーター 澤上幸子 氏
1年365日24時間すべての時間を休みなく、無料・匿名可で受け付けているなんでも電話相談「よりそいホットライン」には、電話相談だけでなく、SNS相談やチャットルームなどを通じて、地震発生当日の1月1日から被災者の方からの相談が届いています。
地震に関する不安だけでなく、支援や制度への不満、ご家族を置いて自分だけが被災地から離れることへの罪悪感、被災地が忘れ去られているように感じる怒りや悲しみ、大切な方を亡くされた喪失感、もともと持っていた家庭内の問題が震災後にさらに困難になったなど、被災者の声は多岐にわたります。
誰にも話せない、誰に話したら良いかわからない、避難所では声をあげられないといった方々の思いを私たちは受け止めています。
こういった相談から聞こえてくる声、見えてくる現状を可視化して社会へ届け、なんとかかたちにしていきたいと思っています。