QUICK ESG研究所は1月30日、日本に拠点を置く機関投資家を対象に毎年実施している「ESG投資実態調査2023」の結果をまとめました。
QUICK ESG研究所「ESG投資実態調査2023」
調査対象 :日本国内に拠点を置く265の機関投資家。
「日本版スチュワードシップ・コード」の受け入れ表明機関、もしくは責任投資原則(PRI)署名機関から抽出。
回答組織数:73(うちアセットマネジャー46、アセットオーナー27)
調査期間 :2023年8月21日~10月10日
ESG投資実態調査とは、2019年から主要機関投資家に実施している調査です。
投資先企業の財務情報に加えて、「環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)」に関する情報から事業の持続性や収益性について、機関投資家がどう評価しようとしているのかを調査しています。
投資残高や手法、企業評価への組み入れ方、投資先企業との関わり方、有価証券報告書に新設されたサステナビリティ情報の活用状況などについて、幅広い回答を得ています。
5回目の今回はアセットマネジャー(資産運用会社)、企業年金基金や共済組合など「年金基金」を含むアセットオーナー(資産保有者)の回答が増え、より多様な考え方を反映した調査結果となりました。
調査結果
運用資産全体に占めるESG投資が「90%以上」の機関投資家の割合は、現在の33%から5年後には46%に高まり、ESG投資が一段と重要性を増すことが関係者の共通認識であることがわかりました。
また2023年3月期から義務付けられた有価証券報告書のサステナビリティ情報は、85%の機関投資家が「活用している」と回答しました。
今回初めて、機関投資家が何社の投資先企業と「対話(エンゲージメント)」しているかを尋ねたところ、最も多かったのは「50社以上100社未満」。
ESGの投資手法については、ESG要因を投資分析や決定に組み込む「ESGインテグレーション」と呼ばれる手法を取る機関投資家が最も多く、同手法が2年ぶりに首位に返り咲きました。
《調査結果の詳細》
◆ ESG投資は増加傾向、「ESG投資が90%以上」の機関投資家は33%から5年後は46%に上昇
(1) 運用資産全体に占めるESG投資の割合は現在、「10%未満(34%の機関投資家が回答)」と「90%以上(同33%)」に二極化していますが、5年後の計画に関しては「10%未満」は24%に低下する一方で「90%以上」は46%に上昇します。
ESG投資の割合は増加傾向にあります。
(2) ESG投資の引き上げ理由については「経営トップによるコミットメント」が50%と最多。
「リターンの獲得」は29%にとどまりました。
◆ 有価証券報告書のサステナビリティ情報、85%が活用
2023年3月期から有価証券報告書にサステナビリティ情報の記載欄が新設され「人的資本、多様性」に関する開示が始まりました。
調査では機関投資家に活用状況を尋ねたところ、85%が「活用している」と回答しました。
活用方法は「対話(エンゲージメント)を実施する際の資料」が77%で首位となり、「投資対象企業を選別する際の社内評価指標」の40%を大きく上回りました。
◆ 機関投資家が「対話」を実施した投資先企業数は「50社以上100社未満」が最多
(1) 今回初めて機関投資家の「対話(エンゲージメント)」実施状況を調べたところ、「環境(E)」「社会(S)」「ガバナンス(G)」いずれの課題でも、最多の回答は「50社以上100社未満」でした。
(2) 「対話(エンゲージメント)」の上位3テーマは「気候変動」「ダイバーシティ&インクルージョン」「人権」で過去2年の調査結果と同じでした。
今回は「労働慣行(健康と安全)」が41%と、「2022調査」の31%から大きく上昇しました。
◆ 投資手法は、「ESGインテグレーション」「対話(エンゲージメント)」「議決権行使」が主流
(1) ESG投資の手法別状況は、ESG要因を投資の分析や決定に組み込む「ESGインテグレーション」と呼ばれる手法が全体の90%を占め、2年ぶりに首位に返り咲きました。
次いで、企業にESG活動を働きかける「対話(エンゲージメント)」が84%、株主総会での「議決権行使」が76%と三番手でした。
今回は順位に変動がありましたが、3手法が「2021調査」以降に上位を占めて主流になっています。
(2) 「ESGインテグレーション」で組み込む要因は「スコープ1、2、3の温室効果ガス(GHG)排出量の内訳と総量」(65%)が首位で、「2021年調査」から変化はありません。