記事ポイント
- ムサシトミヨが新種 Pungitius nakamurai(プンギティウス ナカムラアイ)として正式に記載され、1963年の初報告から60年以上続いた"存在しない魚"の状態に終止符が打たれます
- 体長3.5〜6センチメートルの小型淡水魚で、現在は埼玉県のごく一部に残る冷たい湧き水の川にのみ生息しており、野生下での絶滅が危惧されています
- 今回の新種記載により保護政策の対象種に指定されやすくなるなど、保全活動の強化につながることが期待されます
埼玉県の「県の魚」および熊谷市の「市の魚」として地域で広く親しまれてきた希少淡水魚ムサシトミヨが、新種 Pungitius nakamurai(プンギティウス ナカムラアイ)として正式に記載されます。
鹿児島大学総合研究博物館の松本達也特任助教と国立科学博物館の松浦啓一名誉研究員による研究チームが、日本魚類学会発行の英文誌 Ichthyological Research に2026年4月29日付で成果を公開しました。
図鑑にも掲載され存在は広く知られていた一方、国際的な魚類分類学の分野では60年以上にわたり正式な種として扱われてこなかった本種が、ついに学術上の地位を得ます。
鹿児島大学・国立科学博物館「ムサシトミヨ Pungitius nakamurai」

- 新種学名:Pungitius nakamurai(プンギティウス ナカムラアイ)
- 分類:トゲウオ目トゲウオ科トミヨ属
- 体長:3.5〜6センチメートル/寿命:約1年
- 生息環境:水温10〜18度の湧き水が流れ水草が茂る細い川
- 現在の分布:埼玉県のごく一部のみ
- 掲載誌:Ichthyological Research(2026年4月29日公開)
生時のムサシトミヨは標準体長40.2mmのParatypeとして記録されており、さいたま水族館から生きた個体が研究チームに提供されました。
体側はほのかな光沢をもち、トゲウオ科特有の引き締まった体型を持つ小型魚です。
累代飼育に取り組む羽生水郷公園さいたま水族館の協力により、固定標本では再現できない生時の色彩が論文中に示されています。
研究に使用した標本(タイプシリーズ)は、国立科学博物館・東京大学総合研究博物館・鹿児島大学総合研究博物館・神奈川県立生命の星・地球博物館・群馬県立自然史博物館の5機関に収蔵されています。
複数機関の標本を横断的に検討したことで、ムサシトミヨが他種と明確に分化していることが示されます。
形態と生態
ムサシトミヨは背ビレ・腹ビレ・尻ビレにトゲを持ち、外敵に対してこのトゲを立てて身を守ります。
水温10〜18度のきれいで冷たい湧き水が流れ、水草が茂る細い川を生息域とし、寿命は約1年です。
かつては関東地方に広く分布していますが、生息環境の変化により、現在は埼玉県のごく一部にのみ残存しており、野生下での絶滅が危惧されています。
60年以上を要した新種記載の経緯
ムサシトミヨが長年にわたり国際的な分類学上の種として扱われてこなかった主因は、トミヨ属内の分類体系の混乱にあります。
トミヨ属では種間・集団間で交雑が起きやすく、属全体の分類が定まらない状況が続いています。
近年になって国際的にも本属の分類研究が進み、知見が蓄積されたことでムサシトミヨが他種と明確に分化していることが示され、新種記載に至ります。
1963年の初報告から半世紀以上の時間を経た今回の記載は、複数世代にわたる魚類学者たちの継続的な研究の上に成立しています。
保全活動への波及効果
ムサシトミヨが今日まで命脈を保ってきた背景には、地元の方々による長年の保全活動があります。
今回の新種記載により、本種が保護政策の対象種に指定されやすくなるなど、今後の保全活動の強化が期待されます。
羽生水郷公園さいたま水族館が継続してきた累代飼育の実績は、研究の実現にも直接貢献します。
論文タイトルは「A new species of ninespine stickleback, Pungitius nakamurai (Gasterosteiformes, Gasterosteidae), endemic to Honshu Island, Japan」で、著者は松本達也・松浦啓一の両氏です。
トゲウオ目のなかでも本州固有種として記載された本種の学術的位置づけは、今後の淡水魚保護政策の議論にも影響を与えるものとみられます。
埼玉県の県の魚として60年以上親しまれながら、国際的な分類学の世界では正式な種として認められていなかったムサシトミヨが、Pungitius nakamurai という学名とともに新種として世界に記載されます。
体長わずか3.5〜6センチメートルの小さな魚をめぐる研究者と地域住民の長年の歩みが、一つの学術的な結実を迎えています。
鹿児島大学・国立科学博物館「ムサシトミヨ Pungitius nakamurai」の紹介でした。
よくある質問
Q. ムサシトミヨはどこで見ることができますか?
A. 野生個体は現在、埼玉県のごく一部に残る水温10〜18度の冷たい湧き水が流れる細い川に生息しています。
羽生水郷公園さいたま水族館では累代飼育・保全活動が行われており、飼育個体の観察が可能です。
Q. 新種記載に使用した標本はどの機関に収蔵されていますか?
A. タイプシリーズは国立科学博物館・東京大学総合研究博物館・鹿児島大学総合研究博物館・神奈川県立生命の星・地球博物館・群馬県立自然史博物館の5機関に収蔵されています。
論文の詳細は Ichthyological Research のオンライン版に掲載されています。