記事ポイント
- 鹿児島大学の研究グループが、FAT3遺伝子の変異によって起こる新たな神経疾患「FAT3関連多系統神経発達異常症」を提唱します。
- 日本人3,315名の遺伝子解析で3家系の患者を特定し、進行性の末梢神経障害に加えて舌萎縮や脊柱側弯、偽性腸閉塞などの症状を確認します。
- ショウジョウバエとマウスの機能解析により、FAT3が神経の形成や維持に不可欠で、新たな診断や治療研究につながる可能性が示されます。
鹿児島大学脳神経内科の研究グループが、FAT3遺伝子の変異による新たな神経疾患を明らかにします。
進行性の末梢神経障害に加え、脳神経症状や全身症状を伴う病態として、「FAT3関連多系統神経発達異常症」という疾患概念を提唱した研究です。
研究成果は、2026年4月3日に国際学術雑誌「Genetics in Medicine」にオンライン掲載されています。
鹿児島大学「FAT3関連多系統神経発達異常症」

- 発表主体:国立大学法人鹿児島大学
- 掲載誌:Genetics in Medicine
- オンライン掲載日:2026年4月3日
- 対象者数:遺伝性末梢神経障害が疑われる日本人患者3,315名
- 特定家系数:3家系
- 提唱した疾患概念:FAT3関連多系統神経発達異常症
研究グループは、日本人3,315名を対象にした網羅的な遺伝子解析を実施し、3家系の患者でFAT3遺伝子の両アレル性変異を特定しました。
患者では、進行性の手足の筋力低下や感覚障害を示す軸索型ニューロパチーに加え、舌萎縮、構音障害、顔面筋力低下といった脳神経症状も共通して認められます。
重症例では、呼吸不全や自律神経不全、脊柱側弯、偽性腸閉塞までみられ、末梢神経だけにとどまらない多系統疾患であることが明らかになっています。
患者解析
遺伝性末梢神経障害は、シャルコー・マリー・トゥース病に代表される進行性の神経疾患で、これまでに約140の原因遺伝子が知られています。
一方で、遺伝学的な原因が分からない患者も多く、未発見の関連遺伝子の特定が診断上の課題です。
今回注目されたFAT3は、細胞同士の接着や相互作用を担うFATカドヘリンファミリーの一員で、発達段階の神経系で重要な役割を持つと考えられていた遺伝子です。
これまでヒトの遺伝性疾患との直接的な関係は明らかになっていませんが、今回の解析で疾患原因遺伝子としての位置づけが示されます。
ショウジョウバエ検証

- 用いたモデル:ショウジョウバエ
- 確認された主な変化:生存期間の短縮
- 確認された主な変化:運動機能の低下
- 確認された主な変化:神経接合部のシナプス分岐減少
研究チームは、FAT3変異の病原性を確かめるため、ショウジョウバエを用いた機能解析を行います。
その結果、FAT3の機能を抑制すると、生存期間が短くなり、運動能力が低下し、神経接合部ではシナプス分岐の減少も確認されます。
神経や身体の発達、機能維持にこの遺伝子が重要であることを裏付ける結果です。
マウス解析

- 用いたモデル:マウス
- 末梢神経:坐骨神経で顕著な軸索変性を確認
- 中枢神経:脊髄、大脳内包、小脳プルキンエ細胞で神経細胞の消失や変性を確認
マウスを使った解析では、坐骨神経で顕著な軸索変性が確認されます。
さらに、脊髄や大脳の内包、小脳のプルキンエ細胞など、中枢神経系の広い範囲でも神経細胞の消失や変性がみられます。
末梢神経障害と中枢神経の発達異常をあわせ持つ病態として捉える必要があることを示す重要なデータです。
今後の展望
今回の発見により、原因不明とされてきた遺伝性ニューロパチー患者に対して、FAT3遺伝子を対象とした新たな遺伝子診断の可能性が広がります。
とくに、末梢神経障害に加えて舌萎縮や脊柱側弯、偽性腸閉塞などを伴う症例では、より正確な診断や医療管理につながることが期待されます。
研究グループは今後、ショウジョウバエやマウスのモデルを活用し、FAT3の機能不全が神経変性を引き起こす分子メカニズムの解明を進める方針です。
将来的には、新規治療法の開発につながる研究基盤としての広がりにも注目が集まります。
FAT3遺伝子の変異が、末梢神経障害だけでなく脳神経症状や骨格、腸管にまで影響することを示した今回の研究です。
3,315名の解析と動物モデルによる検証を組み合わせたことで、新しい疾患概念としての説得力も高まります。
診断の幅を広げるだけでなく、今後の神経変性疾患研究にも新たな視点をもたらす成果です。
鹿児島大学による「FAT3関連多系統神経発達異常症」の紹介でした。
よくある質問
Q. FAT3関連多系統神経発達異常症とはどのような病気ですか?
A. FAT3遺伝子の変異によって起こる新たな神経疾患概念です。
進行性の末梢神経障害に加え、舌萎縮、構音障害、脊柱側弯、偽性腸閉塞など複数の全身症状を伴う点が特徴です。
Q. 今回の研究では何人を調べたのですか?
A. 鹿児島大学の研究グループは、遺伝性末梢神経障害が疑われる日本人患者3,315名を対象に網羅的な遺伝子解析を行い、その中からFAT3遺伝子の両アレル性変異を持つ3家系を特定します。
Q. この発見で今後どのようなことが期待されますか?
A. 原因不明だった遺伝性ニューロパチー患者に対し、FAT3を含めた遺伝子診断の選択肢が広がります。
加えて、神経変性の仕組みの解明や新規治療法の研究につながる可能性も期待されています。