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【インタビュー】キャラクターカフェはファンの“好き”を強くする——ディズニーパークの学びを活かす、株式会社エルティーアール・浦野彩さんの挑戦

投稿日:2025年10月29日 更新日:

今や日常的な“推し活”のひとつとして、すっかり定着したキャラクターカフェ。

今回はキャラクターカフェ市場のリーディングカンパニー「株式会社エルティーアール(LTR)」でテーマカフェ事業を統括する浦野彩さんに、体験づくりのこだわりと“好き”を届ける哲学を伺いました。

テーマパークでの経験を活かし、日常の中に非日常を届ける仕掛けとは——

ファンの心を動かす「キャラクターカフェ」の舞台裏に迫ります。

 

キャラクターカフェはファンの“好き”を強くする——ディズニーパークの学びを活かす、株式会社エルティーアール・浦野彩さんの挑戦

 

株式会社エルティーアール・浦野彩さん

 

今や日常的な“推し活”のひとつとして、すっかり定着したキャラクターカフェ。

国内ではアニメやゲーム、映画などさまざまなコラボカフェが展開され、SNS映えするメニューや空間演出が人気を集めています。

そんなキャラクターカフェ市場において、業界をリードする存在が株式会社エルティーアール。

さまざまな人気IPと連携し、企画から空間演出、運営までを一貫して手がけるプロフェッショナル集団です。

今回は、その株式会社エルティーアールでテーマカフェ事業を統括するキーパーソン・浦野彩さんに、Dtimes編集長・あずさゆみがインタビュー。

ファンの“好き”に寄り添い、空間・メニュー・体験にその世界観をどのようにして届けているのか。

キャラクターカフェの今と未来についてお話を伺いました。

 

株式会社エルティーアール・浦野彩さん

浦野 彩(うらの あや

株式会社エルティーアール シニアエグゼクティブ
株式会社CLホールディングス 執行役員付

2004年、株式会社オリエンタルランドに入社。
グループ会社の統括や新規事業、パーク内のレストラン戦略、施設開発などを経て、2023年には経営戦略本部 リゾート統括部長を務める。

現在は、CLホールディングス傘下の株式会社エルティーアールにてテーマカフェ事業の統括を担当。
テーマカフェ事業統括副責任者、常設事業部長、経営戦略室 室長を兼任し、キャラクターの世界観を日常に届ける体験づくりに取り組んでいる。

 

テーマパークの経験は、日常の“好き”にどう活きるか

 

テーマパークの経験は、日常の“好き”にどう活きるか

OH MY CAFE店頭(画像は過去のものです)

 

ーーー 浦野さんは株式会社オリエンタルランドでの長年のご経験をお持ちだとうかがいました。

そうした“没入型の体験づくり”に携わってこられたからこそ、 今、日常の延長にあるキャラクターカフェという場で、どのようにその知見が活かされているのか伺いたいです。

 

浦野 彩さん:

テーマパーク事業では、「体験をどう設計すれば人の記憶に残るか」を徹底的に学びました。

その学びを、今は“日常に近い体験”として応用しています。

キャラクターカフェはパークほど大規模ではありませんが、来店動機・満足度・リピート率といったKPIの構造は共通しています。

規模は小さくても、ブランド体験としての質を高める設計思想は変わらないというのが私の実感です。

 

“おいしくて楽しいのに健康的”——ヘルシーテイメントの哲学

 

店内POP(ディズニー・チェック)

店内POP(ディズニー・チェック)

 

ーーー ディズニーキャラクターを題材にしたスペシャルカフェ(OH MY CAFE)で提供されるすべてのメニューはディズニーの栄養ガイドラインに準拠し、減塩、減糖のレシピで開発されているそうですね。

この『ヘルシーテイメント』という考え方について、ぜひ詳しく伺いたいです。

 

浦野 彩さん:

「ヘルシーテイメント」は、ディズニーが掲げる“健康と楽しさの融合”という考え方です。

当社はその哲学をカフェに翻訳する役割を担っています。

単にカロリーや塩分を抑えるだけでなく、キャラクターの世界観に沿った「おいしさ」「かわいさ」「物語性」を同時に設計する。

そのプロセスは、実はブランド体験の持続性を高める重要な要素です。

栄養ガイドラインに準拠した開発の難易度は正直高いですが、「美味しくて楽しいのに健康的」という新しい発見を提供できるような開発に努めています。

 

メニュー例

OH MY CAFEのメニュー(一例)

 

ーーー 具体的にはどのようにメニューや体験設計に反映されているのでしょうか?

 

浦野 彩さん:

キャラクターらしさを活かして“健康”を自分ごとにすることが重要です。

たとえば、プーさんであれば「ハチミツ」というモチーフを栄養や自然素材の視点で解釈し直す。

そうすることで、「推しと一緒に健やかになれる」という体験に転換できます。

ここで大事なのは、“教育的に健康を押し付ける”のではなく、“キャラクターの世界観を通して楽しく選べる”という文脈に置き換えることです。

これが「ヘルシーテイメント」の本質であり、ディズニーが描くブランド哲学を、日常に落とし込む私たちの役割だと考えています。

 

キャラクターカフェは、ファンの“好き”を強くする場所

 

キャラクターカフェは、ファンの“好き”を強くする場所

店内の様子(画像は過去のものです)

 

ーーー 私自身、カフェに行くたびに“推し”の世界を体験できたような気持ちになります。

こうしたキャラクターカフェという場所は、ファンにとってどんな意味を持つとお考えですか?

 

浦野 彩さん:

キャラクターカフェは、ファンにとって「自分の好きを体感できる一つの接点」であり、日常の中で気軽に世界観に触れられる場所だと考えています。

飲食を通じた体験は生活動線に近く、比較的手軽に楽しめる中で“記憶に残る瞬間”を提供することが、私たちが担う役割です。

我々のカフェでの小さな非日常体験が、ファンにとって「もっともっと好きになる」気持ちの強化の機会となり、IPとファンとの関係性強化につながると認識しています。

 

ーーー キャラクターカフェにおいて、ファンが“あの世界観だ!”と感じられる工夫が随所にありますね。

 

浦野 彩さん:

私たちが一番大切にしているのは、「世界観をそのまま再現するのではなく、どう翻訳して日常に届けるか」という点です。

テーマパークのように徹底的に作り込むことも一つのやり方ですが、カフェはあくまで“日常の場”。

そこで同じアプローチをしてしまうと、かえって不自然に感じられてしまうと思っています。

だからこそ私たちは、キャラクターや物語の象徴的なモチーフを抽出し、飲食という文脈に合うかたちで表現します。

 

ーーー その表現にあたって、どのようなこだわりや設計思想をお持ちですか?

 

浦野 彩さん:

ファンの方々は作品を非常に高い解像度で見ていらっしゃるので、小物一つ、メニュー名一つにも説得力が求められます。

その期待値に耐えられる精度は必ず担保しています。

もう一つ大切にしているのが「余白」です。

すべてを説明しきるのではなく、ファンの想像力が入る余地を残す。

キャラクターとの距離感を崩さないための“間”をどう演出するかも、キャラクターカフェの体験設計において非常に重要だと考えています。

 

ファン、街、社内の声をヒントに、“好き”を翻訳する

 

店内の様子(画像は過去のものです)

 

ーーー 毎回カフェを訪れるたびに“雰囲気作り”に感心しています。

実際の企画やアイデアは、どういったところからインスピレーションを得ているのでしょうか?

 

浦野 彩さん:

発想の源泉は大きく3つあります。

第一に、ファンのインサイト。SNSや口コミから、どんな瞬間を望んでいるのかを抽出します。

第二に、外部環境。街のトレンドや他業種の体験設計から学ぶことも多いです。

第三に、社内の議論。多様なバックグラウンドを持つスタッフのアイデアをぶつけ合うことで、“好き”をどう翻訳するかが磨かれていきます。

これらを経営の視点で整理し、収益性と体験価値の両立を設計するのが私の役割です。

 

リアルの先へ、キャラクターカフェの可能性は広がっていく

 

店内の様子(画像は過去のものです)

 

ーーー キャラクターカフェという体験の場が、ここ数年でより生活に浸透してきた印象があります。

今後、この領域がどのように広がっていくと感じていらっしゃいますか?

 

浦野 彩さん:

キャラクターカフェは、SNS時代の「共有されるブランド体験」として進化してきました。

写真や動画を通じて二次拡散されることで、リアル店舗を超えたマーケティング機能を果たしています。

今後はインバウンド需要や、海外展開の可能性も広がるでしょう。

そのためには一過性ではなく、持続可能なモデルをどう構築するかが鍵になります。

当社としては、飲食を軸にIPの魅力を最大化する“体験ビジネス”として、次の挑戦に取り組んでいきたいと考えています。

 

ーーー 本日は貴重なお話をありがとうございました!

取材・編集・撮影:あずさゆみ(Dtimes.jp)

WebメディアDtimes.jpディレクター/フリージャーナリスト
かわいいもの、おいしいものが大好き。フリーライター、フォトグラファーとしても活動中。

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© Disney. Based on the "Winnie the Pooh" works by A.A. Milne and E.H. Shepard.

取材協力:株式会社エルティーアール

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