記事ポイント
- 芝浦工業大学が「層間適応結晶(LAC)」を開発、分子に応じて層間が伸縮
- 約0.26nmの隙間しか持たない結晶がCO2やベンゼンを取り込む
- 高湿度でもCO2をN2・CH4から選択的に分離する性質を維持
芝浦工業大学の堀顕子教授らの研究チームは、名古屋大学と共同で、取り込む分子に応じて層と層の間隔を変化させ、二酸化炭素や芳香族分子を選択的に認識する新しい結晶材料「層間適応結晶(Interlayer Adaptive Crystal, LAC)」を開発しました。
芝浦工業大学「層間適応結晶(Interlayer Adaptive Crystal, LAC)」

- 結晶中の隙間の平均直径:約0.26ナノメートル
- CO2の動力学的直径:0.33ナノメートル
- ベンゼンの直径:約0.59ナノメートル
- 掲載誌:Angewandte Chemie International Edition
- DOI:10.1002/anie.4090353
一般的な多孔性材料は、あらかじめ形成された細孔の大きさや形を利用して分子を取り込みますが、今回開発した結晶は、もともと約0.26ナノメートルという非常に小さな隙間しか持たないにもかかわらず、動力学的直径0.33ナノメートルのCO2だけでなく、直径約0.59ナノメートルのベンゼンのようなより大きな分子まで取り込むことを見出しました。
分子が近づくと結晶の層間が蛇腹のように広がり、分子を取り込んだ後も結晶性を保ちます。
この結晶は単に分子の大きさを見分けているのではなく、フッ素化された層間表面と分子との静電的な相性を利用して分子を識別しています。

研究チームは、亜鉛イオンと二種類の有機分子からなる二次元の亜鉛錯体シートを合成しました。
このシートでは、フッ素化した有機分子が表面に並び、電子の少ないπ-hole領域を形成しており、二次元シートが積層すると層と層の間に平均直径約0.26ナノメートルの非常に小さな隙間が形成されます。
この隙間は分子が通過するための通常の孔として働くのではなく、CO2など相性のよい分子が近づくと層と層の間隔が広がり、分子を結晶内部へ取り込みます。
CO2の吸着では非常に低い圧力領域から取り込みが始まり、最大で亜鉛錯体の基本単位あたり約2分子のCO2を取り込みました。
CO2の選択的な取り込みと高湿度耐性

- CO2選択性を維持した水蒸気の相対圧:0.89
CO2/N2およびCO2/CH4の混合ガスを用いた破過実験では、N2やCH4が先に結晶を通過する一方、CO2は結晶中により長く保持されました。
このCO2選択性は水蒸気の相対圧が0.89という高湿度条件においてもほとんど低下しませんでした。
この選択性は単純な分子サイズだけでは説明できず、フッ素化芳香環のπ-hole表面は正に偏った静電的性質を持ち、これと相補的な電荷分布をもつCO2を安定化しています。
ベンゼンなど芳香族分子の識別

- ベンゼン取り込み後の空隙体積:取り込み前の約186%まで拡大
直径約0.59ナノメートルのベンゼンは、もとの約0.26ナノメートルの隙間よりはるかに大きいにもかかわらず、層間を広げながら結晶内部へ取り込まれました。
ベンゼンを取り込むと、結晶内の空隙体積は取り込み前の約186%まで拡大しましたが、それでも単結晶状態が保たれました。
ベンゼン/ヘキサフルオロベンゼンやベンゼン/シクロヘキサンの混合条件からも、ベンゼンが高選択的に取り込まれ、分子の大きさではなく、π-hole表面との静電的な相性によって芳香族分子を識別できることが示されました。
層間適応結晶(LAC)は、もとの隙間より大きなCO2やベンゼンを層間の伸縮で取り込み、静電的な相性によって類似分子から高選択的に分離する新しい結晶材料です。








